映画・音楽業界ともに大きなメリット クイーン、エルトン・ジョンなど音楽映画増加の背景は?

 次に、音楽が過去の自分の思い出をノスタルジックにさせてくれるという側面も、音楽映画は持っているだろう。例えば、10代に聞いていた楽曲は、その当時の記憶として色濃く残り、多くの人々は、40〜50代になった今でもその音楽との感情的つながりを持っている。『ボヘミアン・ラプソディ』で描かれたクイーンのライヴ・エイドのコンサートも、実際にあの伝説のコンサートに行けなかったとしても、臨場感あふれるステージと観客との一体感が、映画内で見事に再現されているのを見ることができた。一方、映画『ロケットマン』では、過去にあのド派手な衣装を着たエルトン・ジョンのコンサートに行けなくても、彼のスタイリッシュな衣装を年代を追って、音楽と共に見ることもできた。さらに興味深いのは、映画を鑑賞したことで、エルトン・ジョン、クイーン、あるいはザ・ビートルズなどの名曲をインターネットの音楽配信サイトでダウンロードする若者が急増し、新たなファン層を増やしている傾向もあるのだ。

『ロケットマン』(c)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

 さらに音楽映画には、人々の不穏な時期に現実逃避をさせてくれるケースもある。かつて世界恐慌により不況に陥ったブロードウェイには、フレッド・アステアなどの一流のダンサーがハリウッドに拠点を移し、本格的にミュージカルが製作された経緯があった。そんな不安や厳しい現実を忘れさせ、夢の世界に誘ってくれるのがミュージカルという音楽映画だ。これから公開予定のミュージカル映画では、テイラー・スウィフト出演のミュージカル映画『キャッツ』、スティーヴン・スピルバーグ監督の『ウエスト・サイド物語』、さらにミュージカルで名を馳せた伝説の女優ジュディ・ガーランドを描いたレニー・ゼルウィガー主演の映画『Judy(原題)』が控えている。

 逆に、そんな幻想的な世界とは対照的に、伝記映画としてスターが抱える苦しみも忠実に描く音楽映画もある。映画『ボヘミアン・ラプソディ』ではフレディ・マーキュリーのエイズやジョン・リードとの関係性、映画『ロケットマン』ではエルトン・ジョンの薬物・アルコール依存についてもオープンに語られていた。つまり、ロックミュージシャンの浮き沈みの激しい人生が作品の主軸となっていたからこそ真実味を帯び、観客が入り込む一つの要素となったのだ。このように忠実に描いたことに関して、『ボヘミアン・ラプソディ』の最終監督を務め、『ロケットマン』でも全編メガホンを取ったデクスター・フレッチャー監督は「誰もが実話に基づくストーリーが好きで、実は小説より奇なりとも言える。観客が『本当にこんなことが起きていたのか?』と知ることに、興味を持ってもらえると思うんだ」とインタビューで語っており、等身大のアーティストとして捉えることで、彼らの魅力を倍増させている。

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