「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『火口のふたり』

編集部の週末オススメ映画(8月23日~)

 紆余曲折を経て、私は2012年に「映画芸術」の編集部で働くようになりました。「キネマ旬報」とならぶ戦後から現在まで続いている老舗雑誌である「映画芸術」。その編集長は、脚本家の仕事の傍ら1989年に前編集長・小川徹から引き継いだ荒井晴彦なのです。

 「映画芸術」は、毎年恒例のベストテン&ワーストテン(特に一昨年は大きな波紋を呼びました……)に象徴されるように、ほかメディアではなかなかできない大作への辛辣な批評も厭わず、自主映画、ピンク映画もいい作品は取り上げるという、徹底的に作品と向き合うのが特徴の雑誌です。

 映画の中の人だった荒井さんと、「映画芸術」を通して直接関わるようになり、正直最初は戸惑いの連続でした。ただ、実際に触れて感じたのは、いろいろと厳しい一面はありますが、とにかくたくさん勉強していること、そしてとてもキュートで正面からぶつかる相手には優しいということ。なかなかまっすぐぶつかることができずいた映芸の約4年間ですが、それでも荒井さんの側にいることができた時間は貴重だったなとしみじみ思います。紛れもなく自分にとっての青春でした。

 と、長すぎる前置きになってしまいましたが、そんな荒井さんの新作『火口のふたり』が公開中です。当サイトに掲載しているレビューに巧みな分析が書かれているので多くは語れないですが、試写で観たときに自分が強く感じたのは“優しさ”でした。主人公の2人は快楽にふけり、現実から目を背け続けます。背けることができたのも、それは期間限定だからこそ。しかし、期間限定のはずだった時間は終盤のとある展開で無限になります。2人を繋いでいたルールが壊れてしまえば、関係は崩れてしまいがち。でも、本作は関係を壊すどころか、そんな無限を受け入れてしまえばいいと高らかに突きつけてきます。エンディングテーマ「紅い花咲いた」の歌詞「とっても気持ちいい」の通り、本能のままに行動していく2人の姿がとても清々しく映りました。

 荒井晴彦入門作としても本作は入っていきやすいと思いますし、痛みを伴う失恋を経験したことがある方は、強く響くものがあるかと思います。『火口のふたり』を気に入った方は、『海を感じる時』『共喰い』『身も心も』『赫い髪の女』もオススメです!

■公開情報
『火口のふたり』
新宿武蔵野館ほか全国公開中
出演:柄本佑、瀧内公美
原作:白石一文『火口のふたり』(河出文庫刊)
脚本・監督:荒井晴彦
音楽:下田逸郎
製作:瀬井哲也、小西啓介、梅川治男
エグゼクティブプロデューサー:岡本東郎、森重晃
プロデューサー:田辺隆史、行実良
写真:野村佐紀子
絵:蜷川みほ
タイトル:町口覚
配給:ファントム・フィルム
レイティング:R18+
(c)2019「火口のふたり」製作委員会
公式サイト:kakounofutari-movie.jp/

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