横浜流星が獲得した“ふたつの芝居”のやり方 『あなたの番です』と『はじこい』の共通点は?

 しなやかな弓から放たれると矢の鋭さをもった横浜流星は、現在放送中の『あなたの番です−反撃編—』(日本テレビ系・日曜よる10時30分〜)で、正真正銘頭の良い、工学部大学院生役でAIを研究開発している二階堂忍役を演じていて、これもまた当たり役となった。横浜流星の成功は、ゆりゆりといい二階堂といい、うまいこと外しを入れてくるところにある。ゆりゆりは勉強のできない不良がじょじょに賢くなっていく意外性があり、二階堂も頭が良すぎて日常生活がヘンという落差があり、そこが魅力だ。

 “頭が良すぎて変人”という属性は、女子的に大好物で、過去にそういう役でブレイクした俳優は少なくない。代表的なところでいうと、『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(14年・フジテレビ系)の斎藤工。昆虫が好き過ぎて生き方は不器用な教師役でブレイクした。再放送中の朝ドラ『ゲゲゲの女房』(10年・NHK総合)の向井理は、漫画一筋のやっぱり不器用な人物で大ブレイク。ほかに、『トリック』(2000年〜・テレビ朝日系)の阿部寛。天才的な頭脳を持ちながら、どこかいじまじいところが人気に。朝ドラ「梅ちゃん先生」(12年)の高橋光臣も勉強はできるが理屈っぽい変人で、脇役ながら人気が出てスピンオフも作られた。いまの朝ドラ『なつぞら』の中川大志が演じている役も東大出身の、なんでも根拠を求める理論派だ。このように、何かを極めるあまりほかのことには気が回らない人物が時々見せる隙がたまらなく魅力的に思える。『あなたの番です』の二階堂も、他者のニオイが嫌いで消臭スプレーを欠かさないとか、ひとの作ったものを食べられないとか、潔癖過ぎるところがかわいい。なにより、ジャージにトップスをインしているところがたまらない。お世話したくなってしまう。

 横浜流星が、突出した才能がありながら取り付く島のある役、その振り幅のある役を演じることができるようになったのは、様式性の高いヒーローものをやった後に、廣木隆一監督の青春恋愛映画でナチュラルな演技をたたきこまれ、ふたつの芝居のやり方を獲得したからだろう。ヒーロー過ぎても、ナチュラルな等身大の青年過ぎても物足りない、自分なりのハイブリッドの塩梅を見つけた者に道は拓かれる。

 8月23日に『あさイチ』(NHK総合)に出演し、自身は二階堂とは違い、他者と鍋をつつけないようなことはないと言っていたし、共演者の田中圭が、「まっすぐ」「クール」「根暗」(家で壁を見ている)などと証言しているなかで「クソガキの部分もある」と言っていて、そこにも、こう見えて意外にも……というくすぐりがあった。

 なかでも私が推したいのは、端正で涼しげな顔ながら、眉間に水疱瘡の跡みたいなものがあるところ。そこに横浜流星というスター然とした存在にふと日常性が垣間見えるようで、ホッとするのだ。

■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。

■放送情報
日曜ドラマ『あなたの番です-反撃編-』
日本テレビ系にて、毎週日曜22:30〜放送中
出演:原田知世、田中圭、西野七瀬、浅香航大、奈緒、山田真歩、三倉佳奈、大友花恋、金澤美穂、中尾暢樹、小池亮介、井阪郁巳、袴田吉彦、片桐仁、真飛聖、和田聰宏、野間口徹、林泰文、片岡礼子、皆川猿時、徳井優、田中要次、長野里美、阪田マサノブ、大方斐紗子、峯村リエ 、竹中直人、安藤政信、木村多江、生瀬勝久、横浜流星、田中哲司
企画・原案:秋元康
脚本:福原充則
演出:佐久間紀佳ほか
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:鈴間広枝、松山雅則
制作協力 :トータルメディアコミュニケーション
製作著作 :日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/anaban/

関連記事