【ネタバレあり】『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』論争巻き起こる作品構造を読み解く
RPGでは、次に行く町の場所や敵を倒すのに重要なキーアイテムの存在やありかが事前に示唆されることが多い。プレイヤーが次に行うことを迷わないように誘導しているのだ。しかし、それをそのまま映画に活かすと途端にご都合主義に見えてしまう。ゲーム的な要素を多く残そうとすると映画としては大きな問題となってしまうこともしばしばだ。上記のような理由に加えて、全く『ドラクエ』シリーズをプレイしたことのない人や、小さな子供にもわかる物語にするために過度に説明過剰になっている箇所も見受けられる。
そして今作で一番激しい賛否を巻き起こしているのが、終盤のどんでん返しである。主人公リュカたちは、いよいよ最後の敵である大魔王ミルドラースと戦うという展開になるのだが、急に世界が全てフリーズしてしまう。そして現れたミルドラースの正体はコンピューターウイルスであり、彼らが旅をしてきた世界は、実はVRによって作られたゲームであり、コンピューターの中の世界であることが明かされる。ウイルスは「この世界は全て虚構に過ぎない、大人になれよ」と主人公に向かって語るのだ。
この大どんでん返しに対して様々な反応が集まっているが、否定的な意見には「『ドラクエ』シリーズやゲームを楽しんできた思い出全てを馬鹿にされた」という意見も少なくない。それほどまでに多くのファンの心を揺さぶるほどの展開となっている。ビアンカとフローラのどちらを選ぶのか? という自分の思いに向き合う時にデジタルのような表現を使うなど、この展開に対する伏線も敷かれてはいるのだが、唐突で強引な印象を受けるのは違いない。
しかし、筆者はこの物語の展開については好意的な印象を受けた。それはゲームを取り巻く社会情勢の変化を考えると、決しておかしなことを言っているとは思えなかったためだ。近年はeスポーツが少しずつ認知されてきており高額な賞金の大会も増えることで誕生したプロゲーマーの存在などもあり、ゲームを取り巻く状況は大きな変化が生まれている。しかし、大きな事件やあるいは引きこもりなどの社会問題に対して、重度にゲームをプレイする行為が否定的に報道されることもある。ウイルスの発言そのものは、未だに根強く残るゲームに対する批判として、ありうるもののように受け止められる。