杏と仲間由紀恵、対照的な姉妹の恋の行方 『偽装不倫』宮沢氷魚の部屋は“2人だけの世界”に
これでも2人の関係が壊れないのは、お互いが強く惹かれあっていることと、運命だと強く感じているからだろう。2人の恋は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』になぞらえて語られる。『銀河鉄道の夜』のジョバンニはジョー・バンノ、カンパネルラはイタリア語で鐘という意味で“鐘”子の名だ。丈は、2人で「本当の幸せ」を目指すという『銀河鉄道の夜』の物語に惹かれており、鐘子と幸せを目指したいと思っているようにも見える。こういった運命を感じさせる偶然は恋にとても大きく左右する。鐘子が丈に惹かれているのも、3年も婚活したのに本当の愛を見つけられなかった鐘子が偶然惹かれた相手が、さらに『銀河鉄道の夜』になぞらえた相手だったからだろう。好きという気持ちに拍車をかけるような偶然に、鐘子の気持ちはもう戻れない。しかし口をついで出るのは気持ちと裏腹に嘘ばかりなのだった。そんな切ない2人の恋は、物が少ないながら温かみのある落ち着いた丈の部屋で進んでいく。夜景が一望でき、思い出の写真で飾られた丈の部屋はまるで異国にいるかのよう。鐘子を現実世界から解き放ち、2人の世界に誘うかのようなセットになっている。
葉子のように結婚していないと言いながら不倫をし、どちらの男性とも良好な関係を築く女性もいるが、一方で鐘子のように独身でありながら既婚と嘘をつき、たった1人との恋ですら前途多難な女性もいる。まるで対照的な2人が姉妹であることが、本作の展開をよりドラマチックにしていた。そして器用な葉子と不器用な鐘子のどちらにも共感する余地が残されている。どちらに感情移入しながら観るのか、そんな楽しみもある作品だ。
■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter
■番組情報
『偽装不倫』
日本テレビ系にて毎週(水)22時〜放送
原作:東村アキコ
脚本:衛藤凛
演出:鈴木勇馬、南雲聖一
出演:杏、宮沢氷魚、瀬戸利樹、MEGUMI、谷原章介、仲間由紀恵ほか
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/gisouhurin/