すべての音楽好きにオススメ! 『ハーツ・ビート・ラウド』が「フィールグッド」な映画である理由

 感心させられるのは、本作はそのキャラクター設定において異人種間婚姻やLGBTを含んでいるのだが、物語上それらのイシューがまったくと言っていいほど前景化することがないこと。例えば、娘から自分の恋人が女性であることを告げられた時も、父親は(少なくとも表面上は)それをごく自然に受け止めていく。そうやって、現代のニューヨークを舞台にした作品における模範的ガイドラインを嫌味なく示してみせるところも、本作が本質的な意味で「フィールグッド」な作品である理由だ。

 そして、音楽映画において最も重要だと言える「音楽」そのものも、本作の「見所」となっている。主人公はよくいるクラシックロック至上主義のロックオヤジのようでいて、カメオ出演しているウィルコのジェフ・ トゥイーディーの来店に興奮を隠さず、意中の女性にアニマル・コレクティヴのアルバムについて熱く語るような、根っからのインディー好き。娘は娘で、YouTubeでミツキのライブ映像を夢中で見ているような新世代インディーの申し子。親子の音楽ユニットを描くとなったら、普通だったら世代間ギャップなどを面白おかしく描きそうなものだが、音楽制作に関してのやりとりや演奏のシーンは一貫してシリアス。クライマックスではまさにその音楽の力で、物語をエモーショナルな着地点へと導いてくれる。ジョン・カーニーの音楽映画にグッときたような人はもちろん、すべての音楽好きに自信を持ってオススメできる一作。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。最新刊『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。Twitter

■公開情報
『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』
6月7日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほかにてロードショー
監督・脚本:ブレット・ヘイリー
オリジナルソング・音楽:キーガン・デウィット
出演:ニック・オファーマン、カーシー・クレモンズ、トニ・コレット、テッド・ダンソン、サッシャ・レイン、ブライス・ダナー
提供:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
配給:カルチャヴィル
2018年/アメリカ/英語/97分/日本語字幕:神田直美/原題:Hearts Beat Loud
(c)2018Hearts Beat Loud LLC
公式サイト:http://hblmovie.jp/

関連記事