水谷豊×中山麻聖×石田法嗣『轢き逃げ』鼎談 水谷「今だからこういう作品を作ることができた」

水谷豊×中山麻聖×石田法嗣『轢き逃げ』鼎談

 水谷豊の監督第2作『轢き逃げ -最高の最悪な日-』が5月10日より公開中だ。“タップダンス”を題材にした2017年の監督デビュー作『TAP -THE LAST SHOW-』とは一転、水谷自ら脚本も手がけた本作の題材は“轢き逃げ”。ある地方都市で発生した轢き逃げ事件によって、車を運転していた青年、助手席に乗っていたその親友、悲しみにくれる被害者両親らの平穏な日常が変化し、それぞれの人生が複雑に絡み合っていく。

 今回リアルサウンド映画部では、轢き逃げ事件で亡くなった被害者女性の父・時山光央役で出演も果たした水谷監督と、車を運転していた青年・宗方秀一役の中山麻聖、助手席に乗っていた秀一の親友・森田輝役の石田法嗣による鼎談を行った。「水谷組」の現場でのエピソードから、役者/監督としてのこれからまで、大いに語り合ってもらった。聞き手は、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正。(編集部)

中山「このチームはすごい信頼感で結ばれていた」

ーー中山さんも石田さんもこれまで多くの現場を経験してきたわけですが、他の現場と水谷監督、いわば「水谷組」の現場の最も大きな違いはどこにありましたか?

中山麻聖(以下、中山):チームワークですね。

石田法嗣(以下、石田):間違いないです。

中山:本当にチームワークがすごいんですよ。準備も万全でしたし、監督が一つ指示をするとスタッフが完璧にそれを理解していて、何もかもが早く進んでいく。撮影初日から圧倒されました。

ーー予定よりも撮影が早く終わることもある?

中山:ありましたね。

ーークリント・イーストウッドしかり、スティーヴン・スピルバーグしかり、早撮りというのは多くの名監督に共通する特徴でもあるわけですが。

水谷豊(以下、水谷):(苦笑)。まだ僕は喋っちゃいけない感じですか?

ーー(笑)。石田さんはいかがでした?

石田:初日が遊園地の観覧車のシーンだったんですけど、僕と(中山)麻聖くんと(撮影監督の)会田さんが乗ったら、監督の乗るスペースがなくなってしまって。結局、監督は会田さんとは無線でやりとりすることになったんですけど、「会(田)ちゃんどう?」って無線で訊かれた会田さんが「映像はOKです」って言ったら、監督から「映像がOKならOKだよ」って返事があり、そこから撮影が始まって。このチームはすごい信頼感で結ばれているんだなと。

ーーチームワークとスピーディーさと信頼感。水谷さん、いかがですか?

水谷:まず今の話ですけど、全然覚えてないです。よく覚えてるね?

石田:(笑)。

水谷:撮影が終わると、大体のことは忘れちゃうんです。出来上がった作品を見て、「ここどうやってやったんだろう?」って(笑)。

ーーそれだけ現場で集中されているということだと思うのですが、やっぱり役者として作品に関わっている時の集中力と、監督をやっている時の集中力では、まったく種類が違うものですか?

水谷:それは違うところがありますね。役者の場合はまずストーリーがあって、自分の演じるキャラクターがあって、そのキャラクターには人生があるわけです。なので、役を演じる時、自分はその人生をどう生きようかっていうことを考えるというか、それ以外のことはあまり考えないようにしている。でも、監督になるとカメラの向こうから作品に登場する全部のキャラクターの人生を見なくてはいけない。そこでは、バランスをとることも必要になってくる。役者の仕事が「一人の人生を生きる」ことだとしたら、監督の仕事は「たくさんの人生を見る」こと。そこに集中することになりますね。

ーー撮影中は、生活のリズムにも変化があったりするんですか?

水谷:役者の仕事では、夜ベッドに入っている時に翌日の仕事について「明日はこんな感じでいこうかな」と思い浮かんでもそのまま眠りにつくことができますけど、監督の仕事の場合はそうはいきませんね。ベッドに入っていても何か思いついたらバッと起きて、机に座って何かを書き留めたりする。仕事でそういう現象が起こるようになったのは、監督をやるようになってからですね。

ーー2年前に公開された『TAP -THE LAST SHOW-』の撮影現場にお邪魔した時は、とても初監督とは思えないような迷いのなさで現場をグイグイと引っ張っている姿が印象的で。「これからもきっと水谷さんは監督業を続けていくんだろうな」とは思ったんですけど、役者としての仕事も忙しい中、こんなに早いタイミングで第2作目が届けられるとは想像していませんでした。

水谷:『TAP -THE LAST SHOW-』の撮影の撮影終わりに、岸部一徳さんに「監督の方が向いてるんじゃない?」って言われたんですよ。その時は「僕、そんなに俳優としてはダメですか?」って冗談で返したんですけど(笑)、今回こうして2作目を撮り終わってみると、「あれ? 一徳さんの言っていたことは間違ってなかったんじゃないか」なんて思ったりもーーいや、それも冗談ですけど(笑)ーーやはり、監督業という新しい世界と出会うことができてよかったなと思いますね。

ーー日本ではそこまで多くないですけど、海外だと役者出身の監督であったり、脚本家出身の監督であったりと、それまで別のかたちで映画に関わっていた人が監督業に進出することは珍しいことじゃないですよね。「こんなに面白い世界だったら、もっと早くから足を踏み入れておけばよかった」とかって思いはあったりしませんか?

水谷:いや、やっぱり今だからこういう仕事ができているんでしょうし、今だからこういう作品を作ることができたんだと思ってます。僕は性格的にあまり過去を振り返らないタイプなので、「もっと早くやっておけば」という気持ちはないですね。これは役者の仕事もそうですが、やっぱり人間にはその年代じゃないとできないこと、できない役っていうのがあるんですよ。結果的に監督としては遅いデビューになりましたけど、これからも自分のその時の年代にしかできないような作品を撮っていければと思ってます。

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