『PARASITE』パルムドール受賞から考える韓国映画の現在 第72回カンヌ国際映画祭を振り返る
その後もイ・チャンドン監督が『シークレット・サンシャイン』で女優賞、『ポエトリーアグネスの詩』で脚本賞を受賞し、昨年の『バーニング 劇場版』では公式賞ではないものの国際批評家連盟賞という大きな賞を獲得するなど、20年間で17本の作品が出品され、今回のパルムドールを含め6つの公式賞を受賞してきた。出品監督の内訳は、イム・グォンテク監督が2本、パク・チャヌク監督が3本、イ・チャンドン監督が3本、ポン・ジュノ監督が2本。そしてカンヌで受賞は果たしてはいないが他の三大映画祭で受賞歴のあるホン・サンス監督が4本、韓国映画史上初の三大映画祭制覇を成し遂げたキム・ギドク監督も1本。そして映画祭実績は他の監督から見劣りするものの、国際的な活躍を続けるイム・サンス監督が2本。この7人の監督たちが韓国映画界の海外展開を支えてきたといえよう。
もちろん、韓国映画も他の国々と同じように海外向けのいわゆるアート作品と、国内向けの大衆作品に大きく二分されている傾向は強い。数年前に、ポン・ジュノ監督やパク・チャヌク監督、そして先日Netflixで配信された『人狼』を手がけたキム・ジウン監督がハリウッドにわたり作品を手がけた時期があったが、まだハリウッドのように国外でもヒットする大衆作品を作るまでに至っていないというのが、韓国や日本のみならずアジア映画界の一つの課題といえるかもしれない。しかしながら、その最も重要な下地であるクオリティ面に関しては抜けたものがある韓国映画界。今回のパルムドール受賞をきっかけに注目を浴び、世界的にそのプラットフォームが整うことに期待したいところだ。また、昨年『バーニング 劇場版』をもってしてもショートリスト止まりとなってしまったアカデミー賞の外国語映画賞(次回からは国際映画賞になる)で、おそらく韓国代表になるであろう『PARASITE』が韓国映画初のノミネート、さらには受賞までたどり着くかどうかも目が離せない。
閑話休題、今年のカンヌ国際映画祭に話を戻そう。今年のコンペティション部門21作品の中にはすでにパルムドールを受賞した経験がある監督が5人もいるという異例の豪華さがあった(参考までに昨年は1人、近年では2016年の3人が最も多かった年ではないだろうか)。今回で14回目の参加となるケン・ローチ監督は無冠ながらも安定した評価を集め、テレンス・マリック監督は大絶賛と微妙な評価といういつも通りの賛否両論に。そしてケシシュ監督は冒頭でも触れた問題を抜きにしても、カンヌ全体を騒然とさせる問題作という太鼓判を得た。またクエンティン・タランティーノ監督にはパルムドッグとともに相次ぐ絶賛評が贈られ、狙うべき来年のアカデミー賞への確かな弾みが付くことになり、そして受賞常連のダルデンヌ兄弟にはまだ獲ったことがなかった監督賞が贈られた。
今年のもうひとつのトピックとして、昨年に引き続き審査員団の男女比が同数(審査員長が今年はアレハンドロ・G・イニャリトゥだったので、全9人でみれば男性5人と女性4人に
なるが)。そしてコンペには過去最多となる4作品の女性監督の作品が選出され、そのうち3作品が公式賞を獲得。セネガルの名匠ジブリル・マンベティ監督の姪にあたる女優マティ・ディオップが初監督を務めた『Atlantique(英題)』は、今年の審査員を務めたアリーチェ・ロルヴァケル以来5年ぶりとなる、女性監督作品のグランプリ受賞を果たした。もっとも、ジム・ジャームッシュのオープニング作品やカンヌの申し子と期待されているグザヴィエ・ドランの作品が思いのほか評価が伸びなかったことはあれど、高評価(かつあまり受賞経験のない監督)を集めた作品が順当に受賞を果たすという、珍しいほどうまく収められた結果になったのではないだろうか。
※記事掲載時、一部内容に誤りがございました。訂正してお詫び申し上げます。
■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■公開情報
『PARASITE』
日本公開決定
出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン
監督・共同脚本:ポン・ジュノ(『殺人の追憶』『母なる証明』)
撮影:ホン・ギョンピョ
音楽:チョン・ジェイル
配給:ビターズ・エンド
2019年/韓国/131分/2.35:1/英題:PARASITE/原題:GISAENGCHUNG
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