『夏目友人帳』『となりのトトロ』など日本アニメ映画が中国で相次ぐヒット その社会的背景とは?

 日本アニメの人気の過熱に危機感を覚えた中国政府は、国産アニメの振興策を打ち出すが、その勢いを止めることができなかった。この危機感は2004年にゴールデンタイムの国産アニメーションの放送の義務付けへとつながり、テレビから事実上日本のアニメは閉め出されることになる。

『劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~』(c)YUKI MIDORIKAWA,HAKUSENSHA/NATSUME YUJIN-CHO Project

 しかし、時はすでにインターネットとデジタル複製の時代に突入していた。日本アニメの人気は衰えることなく、海賊版DVDや違法ネット配信によって中国のアニメファンは需要を満たしつづけた。

 海賊版の流通がどの程度あったのか、正確に把握することは難しい。が、文化庁の調査報告書「海外における著作権侵害の現状と課題に関する調査研究 ー中国調査編―」によれば、映像ソフトの侵害者の1年間の売上高は、約1752億円、侵害率は89%に上るという試算をしている。ソフトとなっているから、海賊版DVDなどのパッケージだけの数字と考えられるので、これにさらにネットの海賊版も加えると相当の数だろう(調査対象期間は2001年11月〜2002年10月)。

 また、中国の大学に勤務経験のある橋本正志教授(現京都橘大学 文学部 非常勤講師)は、「私が勤務した中国の大学のホームページには、日本のアニメやドラマ、映画が多数アップロードされたFTPサーバーへのリンクがあり、学生、教職員なら誰でもそこから自由にダウンロードして視聴できるようになっていた」と述懐している(※3)。

 この巨大な権利侵害をなんとか正規のビジネスに結びつけようとする努力が実を結び始めたのは、2010年代に入ってからのこと。テレビ東京が2011年に中国の動画配信サイトTudouと正式にパートナーシップを結び、自局のアニメの正規配信を開始した。これを皮切りに中国配信サイトの正規の権利獲得合戦が始まる。正規配信の権利(授権証)を獲得した企業は、違法コンテンツを追いやるための強力な力を手にすることができ、他社との競争で有利な立場に立てるからだ(※4)。

『君の名は。』(c)2016「君の名は。」製作委員会

 映画市場においても外国映画への開放が進み始め、日本映画にもチャンスが巡ってきた。その恩恵を最も受けたのはアニメ映画で、2014年まで日本映画の上映はゼロだったが、2015年には『STAND BY ME ドラえもん』『名探偵コナン 業火の向日葵』の2本のアニメ映画が公開、2016年には大ヒットした『君の名は。』を含む11本の日本映画が公開され、そのうち9本がアニメ映画である。2017年も9本の日本映画が公開され、うち6本がアニメ映画という状況だ(参照:https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2018/ab0ab7636de81fe2/movies_tv.pdf)。

 そして、2018年には最多となる15本の日本映画が公開された。アニメ映画は6本と実写映画が伸長した形となったが、興行上位に食い込むのは相変わらずアニメ映画である(参照:https://www.jetro.go.jp/biznews/2018/12/6fb58b9efba0045b.html)。

 日本アニメの中国内での需要は、文革によって生じたエアポケットを埋める形で始まった。なぜこの時日本アニメが中国のテレビ局に選ばれたのかというと、安い値段で仕入れることができたということのようだ。

 コルピ・フェデリコ氏は、スタジオジブリの発行する雑誌『熱風』2016年10月号にて、『鉄腕アトム』の中国での放送に関して、「一説によれば、それは中国のテレビ局が虫プロからライセンスを受けたものではなく、日本のカシオが買い取って、自社のCM込みでCCTV(中国中央テレビ)に無償提供したものだったそうである」(P15)と記述している。

 「安さ」というのは中国での日本アニメの広がりを考える上で重要な要素だ。黎明期には安価な仕入れ値で放送時間を埋めることができ、正規のパッケージより大幅に安い海賊版の存在が日本アニメのファンを増やすことに貢献したことは間違いない。

 作品には対価が支払われるべきなのは間違いないが、文化をあまねく普及させるためには、どうすべきなのかも考えさせられる。安く蒔いた種を、正規ビジネスとして刈り取れるようになったのが2010年代からというのは、時間がかかりすぎなのかもしれないが、今の大きなファン層を育てることにつながる重要な時期であったことも否定できないであろう。

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