ZENが語る、パルクールの本質と『HiGH&LOW』出演の真意 「危険なイメージを払拭したい」

ZENが語るパルクールの本質

 『HiGH&LOW』シリーズに〈RUDE BOYS〉のピー役で出演し、日本でパルクールという競技の認知を広めるのに大きな貢献を果たしたZEN。映画におけるド派手なアクションは目を引くため、パルクール=アクロバットのようなイメージも大きいが、本来はもっと奥深い競技だという。4月19日から21日にかけて行われる都市型スポーツの世界大会『FISE Hiroshima 2019』に出場するZENに、パルクールがどんな競技で、その魅力がどこにあるのか、さらにアスリートでありながら映画出演などに力を入れる理由についてまで、たっぷりと語ってもらった。(編集部)

パルクールの本質をしっかりと伝えたい


ーーリュック・ベッソン監督の映画『TAXi2』(2000年)や『YAMAKASI』(2001年)で世界中にその名が知られたパルクールは、ZENさんが〈RUDE BOYS〉のピー役で出演した『HiGH&LOW』シリーズなどの影響もあり、近年では日本でも急速に認知度が高まっています。一方、華麗なアクションなどに注目が集まりがちで、その文化や競技としての特徴などはまだ十分には知られていない印象です。改めて、パルクールとはどんな文化/競技なのかを教えてください。

ZEN:パルクールは自分の体ひとつで周囲にある環境ーーたとえば階段や手すりなどを使い、移動を通して身体を鍛えるカルチャーです。もともとは軍隊におけるナチュラルなトレーニングメソッドとして約30年ほど前に始まりました。Parkourとはフランス語の「parcours-道-」という単語の造語であり、「自分の道を作り上げる、自分の道を突き進む」という意味になります。身体と精神を思い通りにコントロールするという目的で各人が鍛えていった結果として、普通の人から見たら超人に見えるようなアクロバティックな動きも可能になり、パフォーマンスや競技としての要素が高まって、世界各地でコンペティションなどが行われるようになりました。パルクールが競技として確立し始めたのは、ここ10年くらいですね。

ーーパルクールは、BMX、スケートボード、ブレイクダンス、ボルダリングなどとともに、いわゆる都市型スポーツの一つとしても認知されています。都市型スポーツの特徴についても教えてください。

ZEN:都市型スポーツに共通する特徴として、もともとスポーツというよりはライフスタイルや遊びの延長、つまりはカルチャーとしての側面が強いということが挙げられると考えています。BMXやスケートボードも、もともとは街中にあるモノを使った遊びで、それがコンペティションなどを通して次第に競技化していきました。そのため、勝敗はもちろん大事なのですが、自分たちがいかに楽しむか、それぞれの選手がどのように課題に取り組んだかが重視されます。そこがポイントですね。


ーーパルクールには、今なお「危険なスポーツである」というマイナスイメージもあると感じています。そうしたイメージに対してはどう考えていますか?

ZEN:パルクールのオリジネイターたちを題材とした映画『YAMAKASI』は、まさしくそうした問題と向き合った作品でもありました。ビルからビルへと飛び移る派手なアクションは目を引くもので、そうしたパルクールのキャッチーな側面がイメージとして先行するのは自然なことです。実際、『YAMAKASI』では一人の少年が彼らの真似をして命の危険に晒される場面が描かれています。しかし、パルクールだけではなく、ブレイクダンスにせよ、ボルダリングにせよ、一般のスポーツにせよ、きちんとした訓練をせずに挑めば危険なのは同じです。パルクールにも当然、理論というものがあり、僕らは毎日そこに向き合っています。身体の使い方を研究して、精神的にもトレー二ングを積み重ねて、はじめて環境を問わない動きが可能になるのです。映画などによってパルクールの存在が知られるようになるのは非常に喜ばしいことですが、見た目の派手さの先にあるパルクールの本質をしっかりと伝えて、「危険なスポーツである」とのイメージを払拭していくのもまた、僕の役割だと考えています。

ーーパルクールは決して「危険なスポーツ」ではない、と。

ZEN:僕たちの感覚からすると、パルクールを学んでいない方が危険です。僕らは、新しい動きやシチュエーションに挑戦する際、まずはどんな危険が伴うのか、どんな失敗が予想されるかを徹底的に考えます。たとえば、助走が足りないとか、飛距離が足りないとか、逆に飛び過ぎてしまうとか、ありとあらゆる危険を考えて、その対処法もすべてクリアーにしてから障害に挑みます。ストリートカルチャーだから度胸やノリでやっているということは一切なくて、少しでも怖いと思ったらやらないし、怖いならなぜ怖いのか、原因をとことんまで追求します。常に万が一に起こりうる可能性とストイックに向き合っているのが、パルクールというカルチャーなんです。ほとんどの方は、転んだときにどんな風に手をつけば怪我をせずに済むか、もし高所から落ちてしまった時はどう対処すれば良いのか、知らずに生活しているのが現状です。その意味でもパルクールは啓蒙する意味のあるスポーツだと考えています。今後、パルクールを通して、社会の意識を変えていける部分もたくさんあると思います。

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