『さすらい温泉』は遠藤憲一の“究極の役者魂”を堪能できる!? テレ東モキュメンタリーの到達点に

 テレビ東京で放送中のドラマ『さすらい温泉 遠藤憲一』。本局では、これまでも現実とフィクションをミックスしたモキュメンタリー(フェイク・ドキュメンタリー)ドラマをいくつも生み出しており、『さすらい温泉』も、そのひとつとして位置付けることができるだろう。本稿ではモキュメンタリードラマの歩みをふり返りながら、俳優・遠藤憲一にとって原点回帰の意味合いを持つ『さすらい温泉』について考えてみたい。

 まず、数ある名作の中で白眉と言えるのが松江哲明による一連の作品である。

 2015年放送の『山田孝之の東京都北区赤羽』では映画監督の山下敦弘とともに俳優・山田孝之の「崩壊と再生」をドキュメント。赤羽に住む市井の人々をキャスティングした同作は、ドラマの演出と日常生活の境界を融解させ、テレビやスマホの画面を見慣れた視聴者に強烈なリアリティを突きつけた。

 続く『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』(2016年)で若手女優の松岡茉優と各界を代表する「おこだわり人」とのディープな邂逅を果たしたのち、ふたたび山下と組んだ『山田孝之のカンヌ映画祭』(2017年)でその手法は極点に達する。山田孝之がカンヌ映画祭のパルム・ドールを目指す過程を活写した同作は、映画製作のドキュメンタリーを装いつつ、カンヌという映像表現の最高地点に到達しようとする壮大な実験をエンターテインメントとして成立させたもので、『北区赤羽』にはじまるモキュメンタリー連作を総括するものとなった。

 また、『カンヌ』と同時期に深夜枠の「ドラマ24」で放送されたのが『バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』(2017年)である。

 映画やドラマに欠かせない“名脇役”をシェアハウスに集め、そこで起きる出来事を撮影するリアリティ番組を模した設定。実際の『バイプレイヤーズ』は脚本に沿って“本人役”を演じるドキュメンタリータッチのドラマと言うべきものだったが、各回の本編終了後に放送されるオフショットの「バイプレトーク」では、台本のない場所でも変わらない俳優たちの素顔が映し出され、フィクションと現実の境界が見事に消失していた。

 深夜から時間帯を繰り上げた続編の『バイプレイヤーズ~もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら~』(2018年)では、撮影終盤に主演の大杉漣が急逝する中、脚本を一部変更して放送。生前の大杉のオフショットやスマホ動画を組み合わせて完成した最終回は、モキュメンタリーの設定と現実のドキュメントが融合する感動的な放送となった。

 そして、『バイプレイヤーズ』2作品に出演したのが、『さすらい温泉』で主演を務める遠藤憲一だ。22歳でドラマデビューすると、コワモテを生かして多くの作品に出演。連ドラ初主演は同じく「ドラマ24」の『湯けむりスナイパー』(2009年)で、元スナイパーで温泉の従業員「源(げん)さん」という複雑な役どころを好演すると、その後は時代劇から朝ドラまで多彩な役柄を演じ分ける、映画・ドラマになくてはならない存在となった。

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