『バンブルビー』に継承された“スピルバーグ・イズム” 格闘アクションはシリーズ最高の完成度に
『ミッション・インポッシブル』『スター・トレック』『スター・ウォーズ』と、様々な人気シリーズを手掛けたハリウッドの安打製造機、J・J・エイブラムスがベイに対して「これをできるのは貴方だけだ」と発言している。逆に言うなら、ベイ以外に任せられる人間がいないということ。たしかに、この規模の映画を手掛けられる人物など滅多にいない。実際、ベイ自身も映画の完成プレミア当日に本編を編集するなど、信じられないデスマーチで映画を完成させている有り様だった。急に世知辛い話になるが、仕事で言えば引き継ぎがいなかったのだろう。
そんな色々な事情でベイが握り続けていたバトンを、ようやく渡せる相手が現れた。それがトラヴィス・ナイトだ。きっとベイも「時は来た。それだけだ」という感じだろうか。そしてナイトはスピルバーグ・イズムを完璧に継承しつつ、2007年のマイケル・ベイのように自身の必殺技を作品に混ぜ込むことに成功している。悩めるティーンの可愛らしく、しかし繊細で切実なキャラクター造形は、ベイの映画では決して見ることができないものだ。ザ・スミスからボン・ジョヴィまで、音楽の使い方も非常に巧い(個人的には「夜明けのランナウェイ」が最高だった)。また、格闘アクションはシリーズ最高の完成度だと言っていいだろう。今までのアクションは、ロボット同士でも銃撃戦が多く、「格闘」というよりも剥き出しの「殴り合い」感が強かった。しかし、ナイトは『KUBO』で驚くべきアクションシーンをモノにした男、今回はロボット同士が「打」「投」「極」をベースとした総合格闘技的な動きでバトルを繰り広げる。関節の取り合いや、さらにトランスフォーマーのキモともいえる「変形」ギミックを存分に使っているのが心憎い。このロボット同士の格闘シーンだけでも元は取れるだろう。
このように、かつてのベイよろしく、ナイトもまたスピルバーグ・イズムをベースに、自身の才能を見事に作品に詰め込んだのだ。全ての始まりとなった『トランスフォーマー』は、いわばスピルバーグからベイへの闘魂継承であった。ならば本作は、ベイからナイトへの闘魂継承だと言えるだろう。単体の作品として極上、さらにはナイトの今後の活躍と、スピルバーグという才能の普遍性の再確認、そして『トランスフォーマー』シリーズへの期待が広がる素晴らしいエンターテインメント大作だ。
■加藤よしき
ライター。1986年生まれ。暴力的な映画が主な守備範囲です。
『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』に記事を数本書いています。
■公開情報
『バンブルビー』
全国公開中
出演:ヘイリー・スタインフェルド、ジョン・シナ、ジョージ・レンデボーグ・Jr.、ジョン・オーティス、ジェイソン・ドラッカー、パメラ・アドロン、ステファン・シュナイダー
監督:トラヴィス・ナイト
原案:クリスティーナ・ホドソン
脚本:クリスティーナ・ホドソン、ケリー・フレモン・クレイグ
製作:ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ、ドン・マーフィ、マイケル・ベイ、マーク・ヴァーラディアン
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、ブライアン・ゴールドナー、クリス・プリガム
配給:東和ピクチャーズ
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