『二つの祖国』小栗旬が表現する“日系人としての葛藤” ムロツヨシとは対照的な存在に

 さて、本作の見どころは、日系人がそれぞれのアイデンティティを抱え、その境遇に苦悩する点だろう。賢治が「二つの祖国」に対する揺れ動く想いを抱き続けるのに対し、アメリカ人として割り切って生きていこうとするチャーリーの対比が鮮明だ。また、賢治やチャーリーだけでなく、それぞれの妻や家族一人一人の葛藤が描かれてゆく。フィクションでありながら、綿密な時代考証に裏付けされたストーリーは、日系人たちの置かれた当時のリアルな状況を想起させる。

 重厚な原作小説を持つ本作は二時間半という長編ドラマでありながら、息つく暇もないほど目まぐるしく展開され、視聴者を飽きさせない。そしてその中でも、軸となる主演の小栗の演技が光る。葛藤を内に秘めながら、ついに戦場に赴くことを乙七に告げるシーンでは、涙ながらに決然とした想いを開陳する。それはこの作品のメインテーマを見事に表現しており、豪華なキャスト陣によって散りばめられた多彩なエピソードを束ねる役割も果たす。

 家族や友人としての関係が、属する国家によって引き裂かれ、時に差別され迫害されていく様子が描かれる本作は、今の日本社会にこそ観られるべき作品かもしれない。そもそも国とは何か、アイデンティティとは何か。本作を通じて今一度考え直してみるのも悪くはないだろう。

 本日放映される後編では、梛子の故郷である広島への原爆投下や、東京裁判のシーンが描かれるだろう。A級戦犯としてビートたけし演じる東條英機や笑福亭鶴瓶演じる大川周明らが登場する。そしてアメリカ側として裁判の通訳をすることになる賢治の胸中を、小栗はどのように表現するのだろうか。目が離せない。

■エオミナカヒサ
ミレニアル世代。政治・社会情勢を踏まえた映画・ドラマ評論が得意。取材、レポート記事なども執筆。大の読書家。

■放送情報
テレビ東京開局55周年特別企画 ドラマスペシャル 『二つの祖国』
テレビ東京系にて、3月23日(土)、24日(日)21:00~23:24(2夜連続放送)
出演:小栗旬、多部未華子、仲里依紗、高良健吾、新田真剣佑、ムロツヨシ、池田エライザ、橋本マナミ、原菜乃華、仲村トオル、田中哲司、柄本佑、甲本雅裕、リリー・フランキー、中村雅俊、余貴美子、泉谷しげる、麻生祐未、松重豊ほか
原作:山崎豊子『二つの祖国』(新潮文庫刊)
脚本:長谷川康夫
音楽:稲本響
監督:タカハタ秀太
制作協力:テレパック
製作著作:テレビ東京
(c)テレビ東京
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/futatsunosokoku/
公式Twitter:https://twitter.com/sokoku_tvtokyo

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