上白石萌歌と田辺誠一を対の存在として描いた理由 『3年A組』に込められた現実世界への祈り

 なにより興味深かった「目」の演出が、田辺誠一演じる“平成最後の熱血教師”武智の疑惑を描いた7話である。冒頭は武智の主観ショットによって始まり、ファンに囲まれテレビカメラを向けられたところで、その映像は彼の目の中に吸い込まれていく。そして武智を疑惑の目で見ている人々にいつものように「見られる」武智のふざけた姿が示される。その後も、番組出演がキャンセルになり動揺する武智の目の中に入っていくカメラは、彼の心象風景として画面を歪める。そして、終盤再び、自白する彼の目の中に入ったカメラは、暗闇の中で刃のように白く輝く、柊の「正義」の目、本物の「熱血教師」として生徒のこれからを信じている真っ直ぐな目と対峙し、怯えて歪む。

 どうしてここまで武智という小悪党ともいうべき人物が、一際丁寧に、その心象風景と生い立ちまで鮮明に描かれたのか。それには、この物語の中心にいながら、既に死んでしまった存在である澪奈を、武智という対の存在を通して描く目的があったように思う。

 最期の彼女が屋上で取り乱し苦しむ姿は、ネットで激しく糾弾され、話しかけてくる人間が全員敵なのではないかと幻聴に怯え苦しむ武智の姿が重なることによってより鮮明になる。視聴者は誰にでも起こりうる問題としてこの事を捉える。ネット社会において、簡単に加害者は被害者になり得るのだと。

 そればかりでなく、武智と澪奈、加害者と被害者であり性格も立場も正反対の2人は、皮肉にも多くの人々に「見られる」存在であり、上辺だけ“被写体”として消費される存在だったという点で共通していた。まるで、8話冒頭の明るいナレーションと武智の哀しい人生の乖離と同じように、これまで視聴者が全篇通して見せられてきた太陽のように強く凛々しい将来有望な少女という見た目の内側にある、今にも壊れそうな弱さは、終盤2話に差し掛かるまで誰にも気づかれることがなかった。

 かつてアクション俳優としてヒーロー役を目指していたが病気のために敵役のまま夢を諦めざるを得なかった柊は、事件を起こすことで文字通り「世界を敵に回しても、正義のために戦う」ヒーローになったが、当然ながら手錠をかけられる。一方、本物のヒーローである“ガルムフェニックス”と戦い、生徒たちのヒーローになった柊に手錠をかける郡司がこのドラマにおけるヒーローに対する敵役かと言えば、そんなこともない。彼もまた、柊と同じ志を持った、何より本質を見極めることを大切にする人物だ。現実世界において、ヒーローと敵役の線引きは曖昧である。

 そんな世界において、柊がやろうとした大きな「救済」は、最終回、生徒や教師たちがそれぞれに、傷ついた人に向かって手を差し伸べることによって静かに広がっていく。それは、ラストシーンの茅野の祈りとなって、こちらの世界に確かに繋がっているように思う。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■作品情報
『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』
出演:菅田将暉、永野芽郁、萩原利久、秋田汐梨、若林薫、佐久本宝、富田望生、片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)、川栄李奈、上白石萌歌、新條由芽、鈴木仁、古川毅(SUPER★DRAGON)、望月歩、搗宮姫奈、堀田真由、日比美思、森山瑛、三船海斗、今井悠貴、若林時英、今田美桜、飛田光里、大原優乃、神尾楓珠、横田真悠、森七菜、西本銀二郎、福原遥、高尾悠希、箭内夢菜
脚本:武藤将吾
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:福井雄太、松本明子(AX-ON)
演出:小室直子、鈴木勇馬、水野格
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/3A10/

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