『まんぷく』安藤サクラ、“朝ドラの難題”クリアし国民的女優へ 表現者としての類い稀な存在感

 さて、そんな安藤が主演を務めた『まんぷく』もついに最終回となった。かつては新社会人としてホテルの電話交換手の初々しい姿を見せていた福子だが、夫である萬平(長谷川博己)との二人三脚で時代の荒波をいくつも乗り越え、彼の革新的な発明の数々に貢献。ラーメンが売れなければサクラにも扮し(サクラなだけに!)、気がつけば大きくなった二児の母でもある。

 DREAMS COME TRUEの歌う主題歌「あなたとトゥラッタッタ♪」に合わせ、福子が愛らしい姿を見せるオープニング。登場するのは安藤だけであり、放送開始当初に面食らった方も多いのではないだろうか。しかしここだけでも十分に、彼女のポテンシャルが現れているように思える。いくら短い映像だとはいえ、そして大自然がバックにあるとはいえ、主体となるのは安藤ただひとりだ。華美な演出のないシンプルな作りのそれは、作り手たちの挑戦的な試みと受け取ることができ、毎朝の物語の幕開けを、彼女たったひとりで背負えることを証明した。さらに安藤は、満面の笑みを浮かべて終始奇妙な動きを繰り返すが、少女のようなあどけなさの中に、ときおりグッと大人びた表情をのぞかせ、“オトナ”と“コドモ”をひとつの身体で体現している。

 これは本編でも、安藤の大きな武器となった。彼女の年齢不詳性は、朝ドラの難題ともいえる、演者とキャラクターの年齢の開きを軽快にクリア。さらに、品の良さと愛嬌、安心感を与える柔和な笑顔と不屈のタフネスとが、性別というものまでも乗り越えていたように思える。こういったさまざまな要素が重なり合い、福子というキャラクターが、男女問わず幅広い世代から愛されるものになっていったのではないだろうか。

 こうして“国民的女優”とも呼べる存在になった安藤だが、2014年にキネマ旬報が企画した「オールタイム・ベスト 映画遺産 日本映画男優・女優100」の女優部門において、高峰秀子や原節子、山田五十鈴らに続き8位に選出されている。これは映画の目利きの人々のアンケートによるものだ。映画史に名を刻む錚々たる顔ぶれの中、ここに安藤の名が挙がる理由が、いよいよもってより広く認識されたのではないだろうか。いち映画・ドラマファンとして、安藤サクラと同時代を生きられることは、この上なく幸福なことに思える。

■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『まんぷく』
10月1日(月)〜2019年3月30日(土)【全151回】
作:福田靖
出演:安藤サクラ、長谷川博己、松下奈緒、要潤、大谷亮平、桐谷健太、瀬戸康史、岸井ゆきの、松井玲奈、深川麻衣、加藤雅也、牧瀬里穂、松坂慶子ほか
語り:芦田愛菜
制作統括:真鍋斎
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/mampuku/

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