「2018年の日本映画」最大の事件 『寝ても覚めても』を体験/再体験せよ

「2018年の日本映画」最大の事件 『寝ても覚めても』を体験/再体験せよ

 そこで描かれる一連の出来事は、怪奇小説の作家をはじめとする過去の数々の芸術家たちから「ドッペルゲンガー」として親しまれてきた題材と厳密には異なるわけだが、終盤になって遂に同じフレームの中で同時に2人が存在するにいたって、序盤から常にある種の不穏さをまとってきた本作の「怪奇映画」性は隠しようがないものとなっていく。そして、そのフィルモグラフィーに『ドッペルゲンガー』というそのままのタイトルの作品まで持つ黒沢清の諸作品との近似性(キャストの東出昌大、共同脚本の田中幸子、東京藝術大学大学院映像研究科での師弟関係、蓮實重彦を筆頭とする擁護者などなど、挙げていけばきりがない)も、そこで一気に前景化していく。

 しかし、本作の最もスリリングなところは、その決定的な出来事が起こってから終幕までの30分以上にわたって延々と続いていく物語の回収、及びその際に総動員される、めくるめく奇跡的なショットの連打にある。確かに物語の着地点は原作由来のものであるが、そのことは本作終盤の物語への信頼とその語りの力強さへの驚きをいささかも減じるものではない。ここでまたその名前を挙げるのはフェアではないかもしれないが、例えば原作ものも頻繁に撮るようになった黒沢清の近作における(主に終盤になって確信犯的にスイッチの入る)映画的暴走と、猛スピードで駆け出しながらも迷いなく「綺麗」なラストシーンへと向かっていく濱口竜介の端正さの対比は、この20年余りの日本における「作家の映画」の洗練として自分には映った。

 濱口竜介のフィルモグラフィーにおいて連続性を持つ東日本大震災という史実の(原作にはなかった)大胆な導入、作品の主題を歌詞によって上書きするtofubeatsの主題歌。いずれも初見時に魅了されたポイントが、再見時には少々トゥマッチにも感じられたが、そうした説明的な要素も「語りしろ」として本作の「開かれた印象」に貢献していると考えるべきだろう。映画を取り巻くメディア環境の激変、日本以外のアジア各国の経済面における躍進、そしてそれらの国における新しい才能の台頭。もはや実写の日本映画界、ましてやインディペンデント映画界には、映画好きの間だけで「秘められた悦楽」として愛でられている余裕などないはず。日本における最も新しい「国際的に評価された映画監督」である濱口竜介の最新作『寝ても覚めても』は、いくつかの永遠に記憶に残るようなショットによって幻惑的なラブストーリーを力づくで成立させて、真っ正面から21世紀の日本映画を取り囲んでいる壁を突き破ってみせた作品だ。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。最新刊『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。Twitter

『寝ても覚めても』Blu-ray
『寝ても覚めても』DVD

■リリース情報
『寝ても覚めても』
Blu-ray&DVD発売中

◆Blu-ray
価格:5,300円+税
仕様:本編119分+特典映像(1枚組)

◆DVD
価格:3,800円+税
仕様:本編119分+予告編(1枚組)

【映像特典】
・メイキング・オブ・寝ても覚めても(Blu-rayのみに収録)
・監督・キャストによる撮りおろし座談会「永い夢」(Blu-rayのみに収録)
・オリジナル予告編(DVD・Blu-ray共通)

【音声特典】
・オーディオコメンタリー(DVD・Blu-ray共通)
※仕様・特典等は予告なく変更になる場合がございます。

出演:東出昌大 唐田えりか 瀬戸康史 山下リオ 伊藤沙莉 渡辺大知(黒猫チェルシー)、仲本工事、田中美佐子
監督:濱口竜介
脚本:田中幸子、濱口竜介
原作:『寝ても覚めても』柴崎友香(河出書房新社刊)
音楽:tofubeats
主題歌:tofubeats「RIVER」(unBORDE/ワーナーミュージック・ジャパン)
製作:『寝ても覚めても』製作委員会/ COMME DES CINEMAS
制作プロダクション:C&I エンタテインメント
配給:ビターズ・エンド、エレファントハウス
発売・販売元:バップ
(c)2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINEMAS
公式サイト:www.netemosametemo.jp
Blu-ray・DVDサイト:http://www.vap.co.jp/category/1545719932260/

※tofubeats 「寝ても覚めても」オリジナル・サウンドトラック 配信&ストリーミング中

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