生田斗真の笑顔と涙が心を揺さぶる 『いだてん』四三と弥彦を支える家族の思い

 『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)第8話。日本人初のオリンピック選手として、ストックホルムへと出陣する金栗四三(中村勘九郎)と三島弥彦(生田斗真)。家庭環境が全く違う四三と弥彦だが、第8話では彼らを支える家族の存在が印象的な回となった。

 四三の目の前に現れたのは、大金を携えて上京してきた兄・実次(中村獅童)。四三は兄を通じて、春野スヤ(綾瀬はるか)の働きかけでオリンピック出場の資金を得られたと知る。一方、弥彦は母・和歌子(白石加代子)と兄・弥太郎(小澤征悦)に、近くストックホルムへ出発することを伝えていなかった。出発当日、四三と弥彦が乗る汽車が動き出したとき、遠くから弥彦の名を叫ぶ声がする。

 第7話で大森兵蔵(竹野内豊)に「金があるのに行けない三島に、行けるのに金がない金栗か」とつぶやかれていた四三。そんな折、千八百円という大金を抱えた兄・実次がやってくる。病弱な父に代わり金栗家を支えてきた実次は、四三にとって兄であり父親のような存在である。

 実次が用意した千八百円という大金は、スヤの義母・池部幾江(大竹しのぶ)から借りたものだ。当初はオリンピックに対し「そんな得体の知れないものに金は出せない」と話していた。しかし実次は必死に頭を下げ、国の代表として選抜された弟を出場させてあげたいと訴え続ける。そんな実次の姿を見て、幾江は「金栗家の田畑を買い、それを無料で金栗家に貸し出す」という方法で千八百円を工面する。「スヤさんを信頼して」と言っていたが、実次の実直な訴えに心を打たれたことも、お金を工面した理由のひとつなのではないだろうか。

 劇中、海外への渡航に怖気づいた四三に叱咤激励する実次。実次は国を背負うというプレッシャーを抱えた弟の思いに気づいていないわけではないだろう。しかし実次は、オリンピック選手として選ばれたことの意義を伝えるかのごとく「お前が行かなきゃ後が続かん」「お前が弱虫なら、100年後のいだてんも弱虫じゃ」と強く発した。オリンピックへ向かう四三の背中を押す、優しさに溢れた叱咤だ。東京から立ち去るときも、力強い声で四三に言葉を投げかける。「勝とうだなどと思うな!」。四三の「ただ走りたい」という思いを尊重する台詞だった。

 昨今は“勝利至上主義”の思想からさまざまな問題がスポーツ界で起きている。何のために競技に参加するのか、誰のために競技を行うのか。四三の純粋な思いを通して、改めてスポーツを行うことの意義を、見つめ直す必要があるのかもしれない。

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