長澤まさみの堂々たるヒロインぶり 『マスカレード・ホテル』には全魅力が結集

 長澤の多才さは、ここまでに述べてきた作品の多彩なラインナップから十分にうかがえることだろう。そんな彼女が今作『マスカレード・ホテル』で演じるのは、超一流ホテル・“コルテシア東京”の顔とも呼べる、フロント担当のホテルウーマン。世間では連続予告殺人事件が騒がれ、次の殺人が起こる可能性が高いと目されたこのホテルで、長澤演じる山岸尚美は、通常業務に加え様々な格闘を余儀なくされるのだ。

 彼女の不安の種が、当ホテルに潜入捜査官としてやってきた新田(木村)である。眼光鋭く粗野な男であり、職業柄、他人を疑うことが本業の彼とは相容れないのだ。長澤と木村が演じるキャラクターは対照的である。捜査のために奔放な振る舞いを見せる新田に対し、ホテルウーマンの職に誇りを持っている山岸は厳格だ。しかし、宿泊客に向けて絶えず浮かべる彼女の笑顔は、ある意味メカニックなものでもあり、内面を見せようとはしない客たちと同様に、彼女もまた“マスカレード”の参加者の一人であることを物語っている。

 二人はことあるごとに衝突を繰り返すが、やがて互いを受け入れ合うようになり、絶妙な“バディ関係”へと発展。新田とのやりとり、そして事件の真相に近づくにつれて、山岸の仮面は少しずつ外れていき、人間味を滲ませていく。この過程で、その都度見られる長澤の演技の転換の妙に魅せられる。飄々とした新田を前に、空回りして骨を折る彼女は「笑い」を生むし、客に対してのにこやかながらも毅然とした振る舞いは再現度が高く、誰もが見たことのある、プロフェッショナルなホテルウーマンの姿がそこにはあるだろう。そして彼女がある真実に向き合うとき、本作で一番の“人間らしさ”を見せるのだが、それは彼女が宿泊客たちのための影の存在から、本作の主人公に回帰する瞬間でもある。それはまさしく、堂々たるヒロインの誕生とも言えるものだろう。

■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。

■公開情報
『マスカレード・ホテル』
全国東宝系にて公開中
出演:木村拓哉、長澤まさみ、小日向文世、菜々緒、生瀬勝久、松たか子、石橋凌、渡部篤郎他
原作:東野圭吾『マスカレード・ホテル』(集英社文庫刊) 
脚本:岡田道尚
音楽:佐藤直紀
監督:鈴木雅之
配給:東宝
(c)2019 映画「マスカレード・ホテル」製作委員会 (c)東野圭吾/集英社
公式サイト:http://masquerade-hotel.jp/index.html

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