年末企画:小野寺系の「2018年 年間ベスト映画TOP10」 アメリカ映画が刺激的なものに
Netflix映画からも、コーエン兄弟監督のシュールな作風が活かされた、おそろしい西部劇『バスターのバラード』や、アルフォンソ・キュアロン監督による極端な長回し技術にフェリーニ映画の要素を組み合わせたような『ROMA/ローマ』など、質の高い作品が生まれている。映画以外でも『アトランタ』、『ボージャック・ホースマン』、『FはFamilyのF』などの新シーズンも先進的で見逃せない。このように、見るべき作品が劇場以外からも供給されているというのが、最近の傾向だろう。おかげで、消化しきれない事態に陥っている映画ファンや評論家が多いのではないだろうか。
巧みな脚本術で観客を翻弄する『スリー・ビルボード』、必要な材料のみで現在の社会問題をつまびらかにする職人技に感心させられる『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』、普遍的な表現による恋愛描写によって新しい時代の到来を告げる『君の名前で僕を呼んで』も選んだ。
選外作品にも、あまりの衝撃で思わず席に荷物を忘れて帰ってしまった『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』、 「フィギュアスケートの『グッドフェローズ』(マフィア映画)」 と呼ばれた『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』、エイミー・シューマーのコメディ技術が活かされた、既存の価値観をぶち破る『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』など、印象深い作品がある。
このようにアメリカで多様性をテーマにした作品が作られるのは、政治や社会の保守化傾向の反動だと考えられる。そしてそれが、現在のアメリカ映画に先進性を与えていることは確かなのだ。映像配信時代の到来と、社会の重圧という二重の嵐によって、アメリカ映画が、いま世界でいちばん刺激的なものになっている。
日本映画でも、閉塞的な社会を題材にした『万引き家族』、『ハード・コア』、『ギャングース』などの作品が出てきているものの、その数は圧倒的に少なく、比較的大人しい印象がある。日本はいま、面白い映画が撮れる題材が無尽蔵に転がっているはずなのだ。
TOP10で取り上げた作品のレビュー
・ブラッド・バード監督が見せつけた“格の違い” 『インクレディブル・ファミリー』のすごさを解説
・アメリカ社会の現状を描き出すーー『フロリダ・プロジェクト』が重要な作品になった理由
・イメージが覆される驚きの多い作品に 『オンリー・ザ・ブレイブ』の“おそろしき美”
・物事の二面性と中間性を体現する『スリー・ビルボード』の衝撃
・明らかに何かが変? 『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』の隠された魅力を徹底解説
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■リリース情報
『インクレディブル・ファミリー』
MovieNEX発売中、デジタル配信中
MovieNEX:4,000円+税
4K UHD MovieNEX:7,800円+税
(c)2018 Disney/Pixar
公式サイト:http://disney.jp/incredible