『ボヘミアン・ラプソディ』だけじゃない! 公開相次ぐ音楽映画をまとめて紹介

『私は、マリア・カラス』

『私は、マリア・カラス』(c)2017 – Elephant Doc – Petit Dragon – Unbeldi Productions – France 3 Cinema

 もうひとり、歌姫を。クラシックに詳しくなくても、マリア・カラスという名前は聞いたことがあるはず。『私は、マリア・カラス』(12月21日公開)は、伝説的なオペラ歌手、マリア・カラスの生涯を、カラスの言葉で振り返ったドキュメンタリーだ。監督のトム・ヴォルフは3年かけて世界中をまわってカラスの友人たちに会い、個人的な手紙や映像に目を通した。そして、カラスが生前に書き残していた未完の自叙伝を手に入れ、そこに記された彼女自身の言葉を縦糸にして映画を構成した。カラスの言葉を朗読するのは、フランス映画界を代表する女優、ファニー・アルダンだ。

 ホイットニー同様、子どもの頃から、母親の厳しい教育のもと歌手になるために猛勉強したカラス。17歳からしか入学できないアテネ音楽院に13歳で入学すると、そこで歌手としての基礎を鍛えあげ、卒業後に華々しいデビューを飾った。50年代、カラスは若くして名声を得るが、体調不良による舞台の降板や、メトロポリタン歌劇場の支配人との対立がスキャンダルになる。しかし、28歳上の夫は金と地位にしか興味がない俗物で、カラスに歌うことを強制。心身ともに疲れ果てたカラスの前に現れたのが、海運王オナシスだった。オナシスとの熱愛。夫との泥沼の離婚調停。そして、思わぬオナシスの裏切りと、ヨーロッパの上流階級を舞台に歌姫の激しい恋が繰り広げられる。オペラを歌い、オペラのようにドラマティックに生きたカラス。わずか53歳で彼女はこの世を去るが、「私の自叙伝は歌の中に綴られている」という彼女の言葉が、歌に捧げた彼女の人生を表している。

『アメリカン・ミュージック・ジャーニー』

 最後は、アメリカの音楽の歴史を40分で振り返るドキュメンタリー『アメリカン・ミュージック・ジャーニー』(公開中)。様々な文化がぶつかり、混ざり合うことで、アメリカでは多彩な音楽が生まれてきた。その歴史上重要な場所を、LAのミュージシャン、アロー・ブラックが旅してまわる。旅の核になるのは、ジャズ・ミュージシャン、ルイ・アームストロングの生涯だ。奴隷貿易でアフリカから強制的にアメリカへ連れてこられた人々の子孫として、アメリカ南部に生まれたアームストロングは、トランペットの即興的な演奏を通じてジャズという新しい音楽を広めていく。アローはアームストロングの足跡を追って、ニューオリンズ、シカゴ、NYと旅をしながら、アフリカ系アメリカ人の音楽が、アメリカ音楽に与えた影響を振り返っていく。

『アメリカン・ミュージック・ジャーニー』(c)VisitTheUSA.com

 そのほかにも、アローは様々な街を旅する。メンフィスでは“ロックンロールの神”エルヴィス・プレスリーの家に寄り、ナッシュヴィルでカントリー・ミュージック、デトロイトではゴスペル、そして、マイアミではラテン・ミュージックと、その土地にちなんだ音楽を紹介。時には、ラムゼイ・ルイスやグロリア・エステファンなど著名なミュージシャンが話を聞かせてくれる。アローは旅を通じて様々な音楽を吸収し、最後に旅の成果として新曲を披露するという趣向だ。監督のグレッグ・マクギリブレイはIMAXシアターなど大型スクリーン向けの映像分野で活躍しており、街ごとにダンスや演奏シーンを盛り込んで、アメリカ音楽をテーマにしたショウのような華やかな作品に仕上げている。 

 そのほか、映画『ドライビング Miss デイジー』でオスカーを受賞したリリ・フィニー・ザナックが監督を務めた『エリック・クラプトン~12小節の人生~』(公開中)。女性パンク・バンドのパイオニア、スリッツの歴史を振り返る『ザ・スリッツ:ヒア・トゥ・ビー・ハード』(12月15日公開)。タンゴに革命を起こした鬼才、アストラル・ピアソラの生涯を追った『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』(12月1日公開)なども公開予定。年明けにかけて、映画館で音楽を楽しむ機会が多くなりそうだ。

■村尾泰郎
ロック/映画ライター。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などで音楽や映画について執筆中。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』『はじまりのうた』『アメリカン・ハッスル』など映画パンフレットにも寄稿。監修を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)などがある。

■公開情報
『ボヘミアン・ラプソディ』
全国公開中
監督:ブライアン・シンガー
製作:グレアム・キング、ジム・ビーチ
音楽総指揮:ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー
出演:ラミ・マレック、ジョセフ・マッゼロ、ベン・ハーディ、グウィリム・リー、ルーシー・ボイントン、マイク・マイヤーズ、アレン・リーチ
配給:20世紀フォックス映画
(c)2018 Twentieth Century Fox
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/bohemianrhapsody/

『ホイットニー~オールウェイズ・ラヴ・ユー~』
2019年1月4日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
監督:ケヴィン・マクドナルド
製作:サイモン・チン、ジョナサン・チン、リサ・アースパマー
編集:サム・ライス=エドワーズ
撮影:ネルソン・ヒューム
出演:ホイットニー・ヒューストン、シシー・ヒューストン、エレン・ホワイト、メアリー・ジョーンズ、パット・ヒューストン、ボビー・ブラウン、クライヴ・デイヴィス、ジョン・ヒューストン、ケヴィン・コスナー、ケニー“ベイビーフェイス”エドモンズ
配給:ポニーキャニオン/STAR CHANNEL MOVIES
提供:東北新社
2018年/イギリス/英語/120分/カラー/5.1ch/アメリカンビスタ/原題:Whitney
(c)2018 WH Films Ltd
公式サイト:whitneymovie.jp

『私は、マリア・カラス』
12月21日(金)より TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー
監督:トム・ヴォルフ
朗読:ファニー・アルダン
配給:ギャガ
(c)2017 – Elephant Doc – Petit Dragon – Unbeldi Productions – France 3 Cinema
公式サイト:gaga.ne.jp/maria-callas

『アメリカン・ミュージック・ジャーニー』
全国公開中
監督:グレッグ・マクギリブレイ
脚本:スティーヴン・ジャドソン
音楽: スティーブ・ウッド
声の出演:高橋広樹(アロー・ブラック)、坂口芳貞(ナレーション)ほか
製作:マクギリヴレイ・フリーマン・フィルムズ
提供:エクスペディア、ブランド USA、エアカナダ
配給:さらい
2018年/アメリカ映画/日本語吹替/40分/原題:America’s Musical Journey
(c)VisitTheUSA.com
公式サイト:americanmusicjourney.jp

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