岡田健史の演技になぜ心揺さぶられるのか 『中学聖日記』が描く理屈を越えた衝動

 『中学聖日記』と対照的でいつも思い出してしまうのが、『獣になれない私たち』の登場人物たちのことである。こちらの作品では、大人がいかに衝動を抑え、周囲との調和をとりながら、それでも自分の欲望にどう折り合いをつけていくのかが描かれている。もちろんこちらの作品も面白く、またむしろこちらの登場人物たちの気持ちのほうが理解はしやすく、共感もしやすい。だが、それは、自分たちも理屈で生きている大人だからだし、それもある種の他人へのやさしさでもあると思っているからだ。

 しかし、『中学聖日記』の晶には、そんな理屈で生きるところが一切なく、そんな晶の態度は、好意を寄せられた聖ですらも戸惑わせてしまう。7話の放送では、離れ離れになっていた聖の消息を聞くや否や、高校生になった晶は「一秒」で先生のもとに走っていってしまうのだ。

 前述の通り、晶の行動は理屈ではないから共感はしにくい。しかも、それを演じる岡田ですらも、晶の気持ちを理解して演じることが難しい場面もあったと語っている。今の若い世代でも、こんなに衝動で生きている人は稀なのかもしれない。

 それでも、岡田が演じる晶の表情は、そのときの衝動を表しているし、理屈を超えたものとしても見えている。だからこそ、それを観ている私たちも、自分の理解を超えて、ぐっときてしまうのだろう。

 このドラマがスタートするとき、晶という重要な役を、芸能界に入って間がなく、プロの俳優としてまだ演じたことのないまったくの新人が演じるということが話題となったし、岡田健史が中学生というには大人すぎるという声もあったのは確かだ。しかし、今になってみれば、あれだけの衝動をあれだけまっすぐな表情で演じることが、演技の経験だけではどうにもならないことのようにも思えてくるのだ。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■公開情報
火曜ドラマ『中学聖日記』
TBS系にて、毎週火曜22:00~23:07放送
出演:有村架純、岡田健史、町田啓太、マキタスポーツ、夏木マリ、友近、吉田羊、夏川結衣、中山咲月
原作:かわかみじゅんこ『中学聖日記』(祥伝社フィールコミックス)
脚本:金子ありさ
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、坪井敏雄
主題歌:Uru「プロローグ」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/chugakuseinikki_tbs/

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