エロティックな戸田恵梨香とピカレスクなムロツヨシ 『大恋愛』が描く人生のジレンマ

 ふたりの掛け合いは、とにかくナチュラル。完成披露イベントでは、戸田がムロに対して「どうやって好きになればいいの」と言い、ケタケタと笑って見せたが、その率直な言葉が尚というキャラクターとの相性の良さを感じさせる。いろんな意味で相性のいい婚約者がいた尚も、偶然出会った引越しスタッフの真司に“まさか好きになるなんて……”と思っていたはずなのだから。

 居酒屋のシーンでは、ムロの真骨頂とも言えるおふざけ様子が満載。真司は遠くにいる店員にアテレコをして、尚を笑わせる。「とにかく笑い声のトーンがいいんですよ。自分が面白いことを言った、面白い人だって勘違いできる。成功体験をつみかさねて、自信になるんですね。こいつはいい女です!」とイベントでムロが嬉しそうに話していたのは、きっとこういうところなのだとわかる。

 誰かを喜ばせることで自らの存在意義を感じるというのは、多くの人が実感しているところではないだろうか。人は自分だけのために頑張るのは難しいから。そして、孤独を知っている人ほど、周囲の笑顔を自分の幸せだと感じる人が多いようにも思う。ムロほど現代を生きるピカレスクな俳優はいないのではないか。そして、こんなにもすんなりと人の唇と心を奪う戸田もエロティックな女優だ。

 効率よく日々を生きてきた尚にとっての『砂にまみれたアンジェリカ』は、私たちにとってのこのドラマなのだ。記憶を失っていく尚に対して、真司は尚を通じて多くの初体験を記憶していく。「空に向かって突っ立っている煙突みたいに、図太くまっすぐにこの男が好きだとアンジェリカは思った」と自分の文章を暗記するほど好きな人と出会う喜びも。その幸せが増えるほど、失くしていくものが増えるという悲しみも。ふたりの大恋愛を見守る私たちも、切なさが増していくに違いない。戸田とムロとのほのぼのとしたシーンを愛でながらも、過酷な運命に覚悟を決めなければ。

(文=佐藤結衣)

■放送情報
金曜ドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54
脚本:大石静
プロデューサー:宮崎真佐子、佐藤敦司
演出:金子文紀、岡本伸吾、棚澤孝義
出演:戸田恵梨香、ムロツヨシ、富澤たけし(サンドウィッチマン)、杉野遥亮、小篠恵奈、黒川智花、橋爪淳、夏樹陽子、草刈民代、松岡昌宏
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/dairenai_tbs/
公式Twitter:@dairenai_tbs

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