視覚障害をメタファーにしたビターなラブストーリー 『かごの中の瞳』は“女性の欲望の解放”を描く

『かごの中の瞳』の視覚障害が意味するもの

 映画は後半、ジーナが再び視力を失い始めるところからスリリングに展開し始めることになる。当然彼女は焦燥する。いったいなぜなのか? わたしは世界が「見える」状態を保てるのか? これ以降の夫婦のやり取りは、ある意味で生々しく、そしてとても悲痛だ。

 あるフェミニストが「フェミニズムとは、それまで気づいていなかったことに気づくことの喜び」だと説明していたが、それに倣うならばジーナは「見える」ことで自身の欲望を開放し、自分らしい生き方に気づいたと言える。だがジェームズはそれに耐えることができない。女性の欲望の解放と、男権的な存在がそれに立ちはだかることはパク・チャヌク『お嬢さん』(2016)やヨアキム・トリアー『テルマ』(2017)でも描かれているようにつねに抜き差しならない問題であり、そしてときにひどく闘争的な様相を帯びる。『かごの中の瞳』はそうした男女間の闘いをビターなラブストーリーとして物語っているのである。

 本作を観ていると、ここ数年におけるジェンダー・ポリティクスの激動を再見するような気分になる。すると、詳細は書かないが、わたしたちが現在いる地点はこの映画のラストだと言えるだろう。わたしたちは闘い、傷つけ合う以外の道をこれから見つけることができるのだろうか?

■木津毅(きづ・つよし)
ライター/編集者。1984年大阪生まれ。2011年ele-kingにてデビュー。以来、各メディアにて映画、音楽、ゲイ・カルチャーを中心にジャンルをまたいで執筆。編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』。 

■公開情報
『かごの中の瞳』
全国公開中
監督・脚本:マーク・フォスター
出演:ブレイク・ライヴリー、ジェイソン・クラーク、ダニー・ヒューストン
配給:キノフィルムズ/木下グループ
2016年/アメリカ/英語/109分/レイティング:R-15
(c)2016 SC INTERNATIONAL PICTURES. LTD
公式サイト:http://www.kagonaka.jp/

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