『下町ロケット』は現代版『プロジェクトX』? 日本人の琴線に触れる普遍的なドラマ
2015年に日曜劇場で放送されて好評だったドラマ『下町ロケット』(TBS系)の続編が10月14日から放送される。
『下町ロケット』の主人公は、かつて宇宙科学開発機構の研究員だった佃航平(阿部寛)。父親が亡くなったことで実家の精密機械工場・佃製作所の後を継いだ航平は7年間、経営を続けてきたが、主要取引先の大手企業から突然、取引終了の通知を受け取り、メインバンクからも融資を渋られ、その上、ライバル会社からも特許侵害で訴えられる。そんな時、帝国重工の宇宙航空開発部の部長・財前道生(吉川晃司)から新型水素エンジンに必要な佃製作所が所有するバルブシステムの特許を売ってくれと持ちかけられる。
物語は二部構成となっており、一部が佃製作所の技術がロケットエンジンに、第二部では心臓弁膜症患者向けの人工弁を開発するガウディ計画に使用される。大企業やメガバンクに対して、中小企業がものづくりの技術と従業員の団結力で立ち向かい、苦難の末に逆転勝利するというカタルシスのあるドラマに仕上がっていた。
原作小説は池井戸潤の『下町ロケット』と『下町ロケット2 ガウディ計画』(ともに小学館)。第一作は2008年から2009年に『週刊ポスト』で連載されたもので、この作品で池井戸潤は2011年上半期に直木賞を受賞している。2006年に『空飛ぶタイヤ』で、2010年に『鉄の骨』で池井戸は直木賞にノミネートされたが、受賞には至らなかった。どちらも優れた作品だが、この二作ではなく『下町ロケット』で直木賞を受賞したのは、過去作とは違う大衆娯楽小説にふさわしい前向きな空気が本作にあったからだろう。
また、第二作が連載されたのは『朝日新聞』で、連載時期は10月3日からスタートし、11月5日に単行本が発売されるというドラマの放送時期と同時進行だった。こういったリアルタイムのイベントが成立したのは、池井戸潤ブランドが小説という枠を超えて盛り上がりを見せはじめたことの現れだと言えよう。
今や、多くの作品が映画化、ドラマ化されている池井戸潤の小説だが、初期の映像化作品は、WOWOWやNHKの土曜ドラマといった渋めのドラマ枠で作られる大人向けの重厚な作品だった。どの作品もドラマとしての完成度は高いのだが、どこか爽快感に欠けるものが多かった。それが大きく変わるきっかけとなったのが、2013年にTBSの日曜劇場で放送された『半沢直樹』である。