東出昌大×唐田えりかが語る、濱口組『寝ても覚めても』で変化した演技への意識
5時間越えの大作『ハッピーアワー』でその評価を確実なものとした濱口竜介監督の商業映画デビュー作『寝ても覚めても』が9月1日より封切られた。芥川賞作家・柴崎友香の同名小説を原作に持つ本作は、同じ顔をした2人の男ーーミステリアスな自由人の鳥居麦と実直なサラリーマンである丸子亮平ーーの間で揺れ動く1人の女性・泉谷朝子の姿を描いた恋愛映画だ。
今回リアルサウンド映画部では、麦と亮平の一人二役を務めた東出昌大と朝子を演じた唐田えりかにインタビュー。濱口監督の独特な演出方法や、お互いの印象などについて語り合ってもらった。【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】
東出「濱口監督の演出方法は、今までの価値観を180度変えるものでした」
ーー東出さんは何年か前から濱口監督と一緒に映画をやろうと話していたそうですね。
東出昌大(以下、東出):4年ほど前からお話はお伺いしていて、『寝ても覚めても』をやるということは決まっていました。ただその当時は、濱口監督のお仕事の兼ね合いや僕自身の他の仕事の兼ね合いもあり、1年半ほど前に動き出して、オーディションで唐田さんがヒロイン役に決まり、進んでいった形だったと思います。
唐田えりか(以下、唐田):オーディションは、濱口さんと世間話をするような形式でした。そこで「演技に対してどう思いますか?」と聞かれて、正直に「あまり楽しくないです」と伝えたら、ワンシーン分の脚本を渡され、「感情を一切入れずにただ文字だけを読んでください」と言われたんです。それだけのオーディションだったので、私自身はあまり手応えを感じないまま終わってしまったのですが、受かったと聞いたときは、うれしい気持ちを通り越して真っ白になってしまいました。
ーー濱口監督にはどんな印象を抱いていましたか?
東出:濱口監督の前作『ハッピーアワー』が公開されたときには、すでに『寝ても覚めても』に出演することが決まっていたので、自分が濱口組に入るとわかった上で作品を観て、愕然としました。出演者の皆さんが“台詞”ではなく“言葉”を喋っていたので、こんな演技を演出できるってどういうことなんだろう……と。自分自身も役者になった以上、それなりの自負というか、『ハッピーアワー』での皆さんの“生きた演技”に、嫉妬や愕然とする思いを抱きました。
唐田:皆さん本当に“演じていない”というか、“その人でしかない”。それを濱口さんが“ただ”撮っている。その“ただ”が凄いなと。私はちょっと“怖い”と思ってしまうぐらいでしたね。
ーー2人ともどちらかというと構えて濱口組に入ったわけですね。
唐田:ただ、『ハッピーアワー』を観てものすごく驚いたのは事実ですが、同時にすごく楽しみにもなったんです。どちらかというと、早くあの空間に行きたいなという楽しみな気持ちの方が大きかったです。
東出:僕は『ハッピーアワー』のワークショップの内容が綴られた『カメラの前で演じること』も読んでいたので、最初から濱口監督の演出方法をすべて体現するのは難しいだろうなと想像していました。当時役者をして5年で、いろいろな現場も経験をさせていただいていたので、全く現場経験がないよりも飲み込みは早いのかなと思っていたんです。だけど、いざ現場に入ってみると、自分の中で常識となっていたものが、逆にサビのようになった印象を受けて、本当に何も知らない素直さが濱口組にとって絶対条件だったんだなと感じました。それだけ濱口監督の演出方法は、今までの価値観を180度変えるものでした。
ーー今回もワークショップはやられたんですか?
東出:はい。内容は主に『ハッピーアワー』のときと同じで、ニュアンスを排して、台詞をひたすら繰り返しで読むというものでした。それ以外にも、『ハッピーアワー』の劇中に出てきたような、手や頬を触れる身体接触というものもやりましたね。
唐田:濱口監督は「一に相手、二に台詞、三四がなくて、五に自分」ということをすごく言われていましたね。