『この世界の片隅に』ではすずの妹役 正統派女優・久保田紗友の影と透明感の魅力

 その清楚で美しい容姿からCMに起用されることが多い久保田。2015年のNTTドコモ「iPhone・iPad」のCM「感情のすべて/家族」篇は、駅で家族から見送られ、後ほど送られてきたメールや写真を列車の中で見て涙をこらえるという娘を演じた。今まで実年齢よりも大人っぽく見える役を演じてきた久保田だったが、当時15歳で実際に東京に上京してきた等身大の彼女と重なり、新しい生活への期待と不安、最後の涙の奥に見せる笑顔など実に繊細に演じている。

 一方「感情のすべて/男女」篇はiPhoneで距離を縮めていく男女を演じ、こちらは15歳とは思えない大人っぽい魅力で、どちらもその美少女ぶりが大絶賛されることに。2016年から続くアキュビューのCMでも、等身大の爽やかな女子高生を演じ、毎年青春を描くショートムービーとして、久保田が大人になっていく成長過程を親目線で見ているようで、見るものをキュンとさせた。

『ハローグッバイ』(c)2016SonyMusicArtists Inc.

 そして世間的にブレイクしたのが、2017年に芳根京子が主演したNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』。彼氏と同棲しながらジャズ喫茶で働く五月役を演じ、当時17歳とは思えないクールで大人びた様子で妊娠・出産まで演じるなど、彼女の存在感が話題となった。そして2017年に満を持して長編映画初主演となった『ハローグッバイ』。久保田が演じる役は、一見真面目そうに見えて実は万引きや盗み癖があり、何を考えているのか周りからは分からない孤独な優等生。思春期特有の闇を抱え、認知症のおばあさんに出会うことで孤独だった世界が変わっていく、その繊細の心の変化を見事に演じ、ある意味この作品は久保田の女優第1章の集大成的作品だったように思う。

 そして今年高校を卒業し、劇団を退団したことで、女優業一本で本格的に活動をしてくことになり、『この世界の片隅に』に出演することになる。姉よりもしっかり者の次女という役柄で、今まで暗い役が多かっただけに、明るく活発的な役柄は新境地と言っていいだろう。ただ久保田曰く、「私自身と似ている部分がけっこうあって、役には入りやすい」と語っていて、皆がイメージしているクールで無口なキャラではなく、本来はよくしゃべり笑う性格だそうだ。

 このドラマは戦争が背景にあり、主人公のすずがおっとりしている分、ちょっとしたことで暗いイメージなりがちだからこそ、妹の明るく前向きでしっかり者の存在は、主人公とドラマをサポートする重要なポジション。今まで培ってきた演技力でそれを見事に演じていた。物語はいよいよ呉に空襲がやって来て、戦争の影が日に日に濃くなっていく。すずが嫁ぎ先が舞台の中心になっているので、今後の久保田の出番は少ないと思われるが、まだまだ注目していきたいキャラである。

 美しく、演技力があり、そして影と透明感のある、女優として必要なスペックを全て兼ね備えている久保田は、久しぶりに現れた正統派の女優だ。今までは実年齢よりも大人っぽい役が多かったと思われるが、18歳になった今はようやく年齢が追いつき等身大の役が似合うようになってきた。本人も以前から「振り幅のある女優になりたい」と掲げており、次の作品で久保田がどんな役を選んでいくのか。まだ18歳なので、今後演技の幅がどこまで広がって行くのか、彼女の女優としての可能性は無限大である。

(文=本 手)

■放送情報
日曜劇場『この世界の片隅に』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
原作:こうの史代『この世界の片隅に』(双葉社刊、『漫画アクション』連載)
脚本:岡田惠和
音楽:久石譲
演出:土井裕泰ほか
プロデュース:佐野亜裕美
出演:松本穂香、松坂桃李、村上虹郎、伊藤沙莉、土村芳、ドロンズ石本、久保田紗友、新井美羽、稲垣来泉、二階堂ふみ、榮倉奈々、古舘祐太郎、尾野真千子、木野花、塩見三省、田口トモロヲ、仙道敦子、伊藤蘭、宮本信子
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/konoseka_tbs/

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