立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第30回

映画館の最適な音量は「爆音」が正解だったーー米スピーカーメーカーMeyer Sound社を訪問

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】等で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第30回は“アメリカで知る、映画館の音量”について。

 先日、大変幸運なことに、シネマシティがメインで使用しているスピーカーメーカーMeyer Sound社様からご招待いただき、本社のあるカリフォルニアはバークレーを訪れ、各種スピーカーの試聴や工場見学をさせていただきました。さらにはMeyer Soundのプロダクトを採用している、ジョージ・ルーカス監督が作ったルーカス・フィルムの音響制作部門Skywalker Soundの見学までさせていただきました。この許可が下りるのはかなりレアなことだそう。


 抜けるような青い空、降り注ぐ白くまっすぐな陽の光、幾千の光を返す海、街のいたるところに揺れるヤシの木……というヴィジュアルにも関わらず、風が冷たくとても半袖ではいられない肌寒さという気候で、日本では40度を越えた地域もあるというニュースをスマホで見ながら、ひとときの避暑も兼ねる贅沢。

 Meyer Soundでは、一部の木工品と金属部品、電子回路を除いて、ほとんどの部品を自社で製作しており、テストに次ぐテストを繰り返しながら製品が組み上がって完成していくまでを見せてもらいました。

Meyer Sound工場

 またこの工場というのが、映画のセットかよ、とツッコミたくなるほどエレガント。なんとこの建物、かつてはあのハインツのケチャップ工場だったものを改装したとのこと。工場だっていうのに、いたるところに装飾が施されてもいる、アール・デコなムードに酔ってしまいます。こんなノスタルジックな場所から、世界最先端の超ハイクオリティな音が生まれているという事実。カッコ良すぎじゃないでしょうか。

 工場から歩いて移動してMeyer Soundが持っている試写室的な場所、50~60席クラスのPearson Theatre(ピアソン・シアター)へ。ここにはMeyerのシネマ用のスピーカー、Acheron(アシュロン)が設置してあり、サブウーファーには、メタリカのライブのために作られたという人間の可聴範囲より低い音(音というよりほぼ振動)まで出力できるというVLFCという最新機種も。

 ここで音響チームが来場して聴いて絶賛したという『ワンダーウーマン』の、最初に能力が目覚める、ロビン・ライトとのトレーニングシーンを試写していただきました。ガル・ガドットが胸の前で腕をクロスさせて、衝撃波を放ったところで場内に明かりがつきます。思わず同行していた【極上爆音上映】の生みの親、音響家の増旭さんの顔をのぞき込みます。続いて弊社映写クルー雨宮の顔も。

「…あれ?」

 大人としてどうかと思うけど、どうせ日本語わかんないだろうから、この場だけど言っちゃうよ。

「【極爆】のほうがスゴくね?(笑)」

 さすが明晰でリアリティのある素晴らしい音だったけど、セリフの高域も少し気になったし、増さんならVLFCもっと吠えさせられるでしょ、やっぱりきちっと手を掛けないとね、と上から目線でPearson Theatreをあとにしました。まったく図々しいにもほどがあります。

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