「観客をいきなり1973年に連れて行きたかった」 『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』監督インタビュー

 エマ・ワトソンとスティーヴ・カレルが共演した映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』が7月6日に公開される。女子テニス世界チャンピオンのビリー・ジーン・キングと元男子チャンピオンのボビー・リッグスによる、“バトル・オブ・ザ・セクシーズ=性差を超えた戦い”を描いた実話を基にした物語。『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーンがビリー・ジーン・キング、『フォックスキャッチャー』のスティーヴ・カレルがボビー・リッグスをそれぞれ演じた。

 今回リアルサウンド映画部では、監督を務めたジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリスにインタビューを行った。1973年という特定の時代を描いた本作の撮影手法から、エマ・ストーンとスティーブ・カレルに対する思い、また未だに格差が根強く残る映画業界の男女格差などについてまで語ってもらった。

デイトン「ノスタルジックに描きたかったわけではない」

ーー今回の作品は2人にとって3作目の長編監督作になるわけですが、『リトル・ミス・サンシャイン』(2006)、『ルビー・スパークス』(2012)の過去2作とはガラリと雰囲気が変わったように感じました。

ヴァレリー・ファリス(以下、ファリス):私たちは毎回それが初めての作品に取り組むようなスタンスでいるの。過去の作品のことは特に考えずに、「このストーリーだったらこうしよう」「この時代だったらこうするべきだ」という考えね。今回の作品は、1970年代という私たちの大好きな作品が多い時代設定だった。だから、1970年代に作られた映画のようにしたいと思ったわけ。私たちは実際に1970年代に生きていたけれど、その時代を描いた作品の中には「私たちが知っている1970年代ではない」と思うときも結構あるの。その中でも今回はいろんなことが起こった1973年という具体的な1年を描いていて、その時代に近づけるために、実際にフィルムで撮影しているし、当時のレンズも使っている。新しいチャレンジとしてとても楽しく作ることができたわ。

ーー「1970年代に作られた映画」として具体的に参照した作品はあったんですか?

ジョナサン・デイトン(以下、デイトン):一番はロバート・アルトマンの『ナッシュビル』(1975)だね。あとはジョン・カサヴェテスやハル・アシュビーの作品もそうだ。『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』(1976)がどのように撮られているのかを撮影監督と一緒に研究したりもしたんだ。今は主流になっているステディカムも当時はまだなかった。だから、非常に長いショットである人物を追いかけて、ズームアウトしてまたズームインをして……というようなショットを今回は多用して、当時の映画に近づけようとしたんだ。

ファリス:ステディカムで撮るのは簡単で、言ってしまえば“怠惰”ね。私たちは今回、そのような簡単な方法ではなくて、当時のスタイルで、きちんと場所や構図も決めて撮るというスタイルで臨んだの。『ナッシュビル』でもそういうシーンがあったように、ボビー・リッグスが最初に登場するシーンでは、彼が1人で会社にいる様子をものすごいズームで撮った。そのようにワイドショットを使ったりズームレンズを使ったりして、今の映画言語とはまた違うものを目指したの。

ーー1973年という特定の時代を描きつつも、映画を観進めていくうちに現代を描いた作品のようにも感じることができました。

デイトン:うん、まさにその通りだね。1973年に起きたことと同じようなことが、今また実際に起こっている。僕たちとしては、1973年という時代をノスタルジックに描きたかったわけではない。まるで1973年の人たちが作っているような、現代的な映画にしたかったんだ。

ファリス:最初の脚本には、時代設定をするためにベトナム戦争のフッテージを入れたり、73年のCMを入れたりというようなことが含まれていたの。でもそうすると、観ている側は「あ、これは45年前の話だ」となってしまう。そうではなくて、私たちはできるだけ観客をいきなり1973年に連れて行くというようなことをしたかったの。

ーーエマ・ストーンとスティーヴ・カレルの変貌ぶりにも驚きました。2人の試合のシーンは実際に2人がプレイしていたんですか?

ファリス:テニスシーンに関しては、実際に彼らがプレイしている映像は使っていなくて、プロがプレイしている映像にCGで2人の顔をはめているの。どれだけ練習したとしても、やっぱりプロの動きを短期間で身に付けるのは難しいからね。でも、肉体改造をして筋肉をつけたりビリーの動き方をよく研究したりして、ビリーになりきったエマは見事だったわ。あと、試合のシーンは映画的な撮り方ではなく、テレビで中継されているような実際のテニスの試合を参考にしたの。当時の試合の映像がフッテージで残っていたのだけれど、まるで舞台のような、本当に美しい光景だったわ。

関連記事