榮倉奈々を堪能できる至極の1本! 『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』の愛おしさ

榮倉奈々、無邪気な笑顔の愛おしさ

 一方で、彼女の不器用さも記憶に強く残る。彼女は夫と話すとき、友人やパート先の人と話すとき、口にする言葉をじっくり考えてから丁寧に紡ぐ。その様子は、相手を傷つけないためにはどうしたらよいか、相手を元気づけるためにはどうしたらよいかという「他人を想う気持ち」に溢れている。時にたどたどしく微笑み、悲しいことがあっても涙を流すことなく、目に涙を溜めながら笑顔を見せようとするちえ。榮倉が不器用なつくり笑いをするたび、ちえの本心はどうなっているのだろうと不安になってしまう。他人が抱える心の痛みや不安感に寄り添おうとする彼女を演じる榮倉の純粋な瞳が、笑顔を見せないシーンのときだけ涙で潤むのが印象的だった。

 劇中で唯一ちえが感情を爆発させるのは、ちえを男手一つで育てた父親が倒れたときだ。意識が戻った父親はじゅんに「ちえが泣いたのは母親が死んで以来だ」と話す。父親はじゅんに「元気のない父親を元気づけようと、ちえは父が帰宅するたび『かくれんぼ』を仕掛けてきた」という話を聞かせる。それはまるで「死んだふり」の状況に似ている。

 今作では「なぜちえが死んだふりを続けていたのか」という問いの答えは明かされない。しかし映画の最後、じゅんとちえの思い出の場所で笑い合う2人の姿を見ると、答えを知る必要はないと感じてしまう。榮倉の無邪気な笑顔と純粋な目が「ひたむきに大切な人を想う」ことの愛おしさを教えてくれる。今作は、榮倉の自然体な演技が魅力的な至極の1本になったのではないだろうか。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■公開情報
『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』
全国公開中
出演:榮倉奈々、安田顕、大谷亮平、野々すみ花
原作:『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』(作:K.Kajunsky、漫画:ichida/PHP研究所刊)
監督:李闘士男
脚本:坪田文
主題歌:チャットモンチー「I Laugh You」(キューンミュージック)
配給:KADOKAWA
(c)2018「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。」製作委員会
公式サイト:tsumafuri.jp

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