広瀬すずの“虚構の家族”は何を意味する? 『anone』が示した、テレビドラマと視聴者の関係
第5話では、家族を演じるハリカたちの楽しそうな姿が延々と描写される。『カルテット』もそうだったが、とりとめのない無駄話は、意味がないがゆえに心地良くずっと観ていたくなる。しかし、林田家を訪れた中世古理市(瑛太)が、偽札製造の方法について延々と話し出すと、その幸福な空間は一変してしまう。
中世古の語るのは「偽札の作り方」だけで、ハリカたちの在り方を糾弾しているわけではない。しかし、今まで出てきたどの台詞よりも暴力的に聞こえた。だが、この無機質で工学的な言葉によって作られる偽札こそが、病気のカノンを救う力になるかもしれないのだ。
圧倒的な現実を前に、慰めることしかできない虚構の世界に、無機質で暴力的だが、現実を変えることのできる工学的な言葉を中世古は持ち込んだ。ここで物語は、虚構の力で現実を変える方向へとシフトしたように感じた。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■放送情報
『anone』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:広瀬すず、田中裕子、瑛太、小林聡美、阿部サダヲ、火野正平ほか
脚本:坂元裕二
演出:水田伸生
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:次屋尚
制作協力:ザ・ワークス
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/anone/