ジャパニーズ・ホラーはただの流行りものではなかったーー『ザ・リング/リバース』に見るその行方

小野寺系の『ザ・リング/リバース』評

 だがジャパニーズ・ホラーを牽引してきた『リング』は、まだまだその全てがしゃぶり尽くされているわけではないはずだ。今回の『ザ・リング/リバース』は、その部分に食指を伸ばしたリメイク作だったように感じられる。リメイク第1作であった『ザ・リング』は、非常に丁寧な作りでありながら、やはり映画『リング』の内容をアメリカ映画として置き換えていくという作業に終始していたように思えるが、本作は呪いのメカニズムを科学的に解明しようとするシーンに見られるように、原作小説を書いた鈴木光司も認めるとおり、原作の内容に近いものになっている。日本版『リング』が扱わなかった原作の内容すら拾ってきて、もう一度『リング』シリーズを総括しながらやり直そうとする脚本になっていたのだ。

 そして、SNSを通した若者たちのコミュニケーションへの不安感、アメリカでとくに近年取りざたされている、聖職者による過去の虐待事件の捜査、そして絶えず起こっている監禁事件など、現在のアメリカの問題を描いた映画として、より存在理由も高められている。同じプロデューサーによる、リメイク作の姿勢についての変化というのは、業界自体の作品づくりの手法の洗練を意味するように思えるし、作品に深みを与えようとする意志を感じるところだ。

 本作が長編2作目となった、スペイン出身のF・ハビエル・グティエレス監督は、前作『アルマゲドン・パニック』で、SFやホラー、そして極限状態における細やかな人間心理を描いて評価されている。そこで描かれていた「水が下から上へと逆流するイメージ」は、本作で雨つぶが空に向かって登っていく描写にもつながっている。これは、中田秀夫監督が『仄暗い水の底から』や『ザ・リング2』で表現した演出に通底する部分だ。グティエレス監督がさらに前に撮った短編映画『Brazil』からは、恐怖描写にユーモアをとり入れる感覚に優れていることも分かる。その意味では、より複合的な価値を持たせられた本作の脚本に、監督の資質が適合していたといえるだろう。

 近年のアメリカのホラー映画を追っていくと分かるように、ジャパニーズ・ホラーは、一過性のブームとして消え去っていくような、ただの流行りものではなかった。それはむしろ、アメリカ映画のなかに深く織り込まれる存在となり、より身近なものとして作品を支える力となっている。本作『ザ・リング/リバース』は、そのような状況を分かりやすく確認できる一作でもある。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ザ・リング/リバース』
全国公開中
監督:F・ハビエル・グティエレス
脚本:デヴィッド・ルーカ、ヤコブ・アーロン・エステス、アキヴァ・ゴールズマン
製作:ウォルター・F・パークス、ローリー・マクドナルド
出演:マチルダ・ルッツ、アレックス・ロー、ジョニー・ガレッキ、ヴィンセント・ドノフリオ
配給:KADOKAWA
提供:KADOKAWA、アスミック・エース
原作:鈴木光司/映画『リング』
2017/102分/アメリカ/原題:Rings
(c)2017 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://thering-movie.jp/

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