『インセプション』以降の“夢”の在り方ーー『フォーリング・ウォーター』の綿密で複雑なパズル
「夢」というのは、古今東西、数々のドラマや映画のなかで、頻繁に扱われてきたモチーフだ。そのなかでも、「他人の夢に入り込む」という本作の設定を見て最初に思い出すのは、クリストファー・ノーラン監督の映画『インセプション』かもしれない。そう、本作はまさしく『インセプション』以降とも言うべき「夢」の在り方を、その中心的なテーマに据えた作品なのだ。すなわち、我々が見る「夢」というものを、単に「現実」と「虚構」のあいだにあるものとして扱うのではなく、現実世界(「物質世界」と言ってもいいだろう)では決して起こり得ない、他者とのスピリチュアルな「繋がり」の場所としての「夢」。よって、問題となるのは、その境目……「現実」と「虚構」の境目ではなく、そこで得られる「繋がり」と、それが人々にもたらせる「意味」のほうなのだ。
ブリット・マーリング主演のドラマ『The OA』、あるいはウォシャウスキー姉妹のドラマ『センス8』など、人種や性別を超えた人々が、「ある精神世界のなかで繋がる」ことを描いた作品は、近年とりわけ数多いように思われる。さらには今年、そんな「連鎖して侵食する悪夢的世界」の草分けとも言えるデヴィッド・リンチが、『ツイン・ピークス The Return』として、約25年ぶりに「ツイン・ピークス」の世界を描き出したことも、大いに話題となった。本作『フォーリング・ウォーター』は、その大きな流れのなかに位置する作品といっても過言ではないだろう。ちなみに、リンチ的な「終わりなき悪夢」が、リンチ個人のめくるめく想像力の産物であるとするならば、本作は「夢」という形で現れる人々の「集合的無意識」とも言うべき事象をひとつのものに編み上げることによって浮かび上がる、より高次な「真実」といったニュアンスも感じられる。人種や国籍など、外見や情報に左右されることなく、精神的に繋がり合うことができるならば、人類はより高次な存在になれるかもしれない……そんな、ある種SF的とも言えるテーマも内包しているところが、本作のさらに興味深いところなのだ。
すでにシーズン2の製作も決定しているという『フォーリング・ウォーター』。表題の通り、随所に挿入されるさまざまな「水」のイメージや、頻出するシンメトリカルな構図、さらには通奏低音のように流れる不穏な音楽……すべてのヒントは、物語のなかに現れているように見えるにもかかわらず、それが全体として何を意味するのかは、最後の最後までわからない。まさしく、誰かの「終わりなき夢」を覗き見ているような……。これからの年末年始、ある種幻惑的とも言える、この緻密で複雑なパズルにじっくり取り組むには、まさしくうってつけのタイミングと言えるだろう。
■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。
■配信情報
『フォーリング・ウォーター』シーズン1
12月15日(金)から配信スタート、以降毎週金曜日に1話ずつ追加配信予定
製作総指揮:フアン・カルロス・フレスナディージョ、ゲイル・アン・ハード、ヘンリー・ブロメル
脚本:ヘンリー・ブロメル
出演:リジー・ブロシュレ、デヴィッド・アヤラ、ウィル・ユン・リー、アンナ・ウッド、カイ・レノックス、ザック・オースほか
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公式サイト:https://www.happyon.jp/falling-water