偉大な映画音楽はいかにして生まれたのか? 圧巻のドキュメンタリー『すばらしき映画音楽たち』評


 さらに興味深いのは、本作に登場する錚々たる映画音楽家たちが、口をそろえて映画音楽の製作に対する不安や苦悩を正直に吐露している点だった。今日では、数億ドルの製作費を掛けて、膨大な数のスタッフを動員しながら生み出されているハリウッドの大作映画。それを最終的に生かすも殺すも、ある意味音楽次第なのである。決して延ばすことのできない締め切りのなかで、映画音楽を次々と生み出してゆくこと。その重圧は、想像するだけでも実に恐ろしいものがある。しかも、自分の好きなように自由に表現するのではなく、監督の意向を正確に汲みながら、なおかつその期待を上回るものを作り出さなくてはならないのだから。けれども、まさしくそれこそが、映画音楽の醍醐味なのかもしれない……というのが、本作を観終えたあとの率直な感想だ。自分のためではなく監督のため、究極的には作品そのもののために、文字通り身を粉にしながら、試行錯誤の果てに音楽を生み出してゆくこと。そして、それが見事と映像と相乗効果を生み出しながら、世界中の観客たちの心に大きな感動を与えてゆくこと。その達成感たるや、まさしく他には代えがたいものがあるのだろう。


 各地のシネコンなど音響設備の整った映画館の充実、あるいは「爆音映画祭」、「極上爆音上映」といった音響面にこだわった上映形態の登場、そしてオーケストラの生演奏とともに映画を鑑賞する「フィルム・コンサート」が頻繁に開催されるようになるなど、映画音楽に対する意識は、ここ日本においても、これまでにないほど高まりをみせている。さらには先日、JASRACによる「映画音楽使用料の規定改正」に向けての方針が発表され物議を醸すなど、近年何かと注目されている映画と音楽の関係性。本作は、その関係性について改めてもう一度考える上で、まさに打ってつけのドキュメンタリー映画だと言えるだろう。何よりも、劇中に次々と登場する映画音楽の傑作や名シーンの数々に、耳と目をゆだねているだけでも、実に豪華な……そう、表題の通り、観終えたあとには思わず、「映画音楽はすばらしい!」と叫ばずにはいられない珠玉の体験が、そこで待っているのだから。

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twtter

■商品情報
『すばらしき映画音楽たち』
11月22日、Blu-ray&DVD発売
Blu-ray:¥4,800+税
DVD:¥3,800+税
発売元:キングレコード株式会社
監督・脚本:マット・シュレーダー
音楽:ライアン・トーバート
出演:ハンス・ジマー、ダニー・エルフマン、ジョン・ウィリアムズ、ジェームズ・キャメロン、ランディ・ニューマン、クインシー・ジョーンズ、ハワード・ショア、パトリック・ドイル、ブライアン・タイラー、スティーヴン・スピルバーグ
原題:「SCORE: A Film Music Documentary」
2016年/アメリカ/93分/カラー/ビスタ/5.1ch
(c)2017 Epicleff Media. All rights
公式サイト:http://score-filmmusic.com

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