『監獄のお姫さま』第5話に感動ーー女囚たちの「母親ごっこ」が育んだ絆
「思い出作っちゃいけないなんて、悲しすぎます。私たちは子どもの記憶に残ることも許されないんですか?」
11月14日放送の『監獄のお姫さま』(TBS系)第5話のタイトルは『母性』。馬場カヨ(小泉今日子)ら刑務所仲間たちが、姫(夏帆)の息子・勇介を育てるさまが描かれた。2017年のクリスマスイブ、爆笑ヨーグルト姫事件の再審を求めた誘拐事件は、彼女たちの母性が突き動かしたものだったのだ。
無実の罪を被って収監された姫。その裏には、言葉巧みに搾取していく吾郎(伊勢谷友介)に、子どもだけは奪われまいという強い意志があった。自己犠牲も厭わず、我が子を守り、育てようとするのが、いわゆる“母性“。その衝動は、同じ時を過ごす女囚たちにも湧き上がる。法律的に、刑務所で育てられるのは最長1年半。その間、勇介は“ちょっと高い塀のおうちで、6人のママに育てられた“。彼女たちが交替で付けた育児日記は、ミルク、うんち、離乳食の時間が事細かに記録してあった。「寝返りしたの?」「勇介大好き」とそれぞれの想いが書き込まれた交換ノート。そこには「本当はこんなケーキをあげたいな」と、馬場カヨの幸せの記憶の象徴となっているクリスマスケーキのイラストも。
刑務所で出るスポンジケーキはお粗末なものだが、それでも“気持ち“として馬場カヨは勇介にケーキをあげずにはいられない。その気持ちは雑居房にいる全ての女囚に、そして看守たちの心にも響く。勇介が1歳のクリスマスには、女囚みんなから勇介にケーキが届き、先生(満島ひかり)もまた自分の幸福な思い出の形である、折り紙で作った手裏剣を贈る。「(気持ちだとしたら)重いよね、ごめん。でも軽くならないの」と女優(坂井真紀)が照れくさそうに言うのは、どこかで贈りながら、自分たちが満たされているのをわかっているからだろう。子どもを保護し、育てているように見えて、実はその子どもから多くのものをもらっているのだ。
その子が生きるために自分が必要なのだと思える自己肯定感、色眼鏡で見ないというニュートラルなふれあい、なにより一緒に過ごした思い出が、大人たちを笑顔にする。生きていれば様々な肩書きや“こうあるべき“といった呪いにとらわれ、自分は生きる価値がある人間なのかという気持ちになることもある。そんなときに心を温めてくれるのは、幸福な記憶だ。勇介がなかなか寝付けずに姉御(森下愛子)と女優が「ジンギスカン」のリズムであやしたこと、初めてつかまり立ちをしたとき“申し出“のカードを出したこと、初めてしゃべった「てんけ〜ん」という言葉、財テク(菅野美穂)がした税金高い高〜い……すべての記憶が、彼女たちにとっては何にも代えがたい宝物になった。
吾郎から「母親ごっこ」と呼ばれた、その1年半は、様々な事情で集まった女囚たちにとって生きる希望となったのだ。母性とは、自分が生きた証を感じたい衝動なのかもしれない。その希望の象徴である勇介が、姫の意志とは異なる形で吾郎の手に渡ったとなれば、おばさんたちは黙っちゃいない。最初から吾郎ではなく勇介を誘拐したのも、ひと目会いたかったからなのではと思うと、胸が詰まる。
そんなシリアスなテーマを掲げていながらも、全体のタッチはさすが宮藤官九郎といったユーモア溢れるセリフとスピード感ある展開で、グイグイ引き込まれる。なかでも、最高に輝いているのは、先生を演じる満島ひかりだ。姫の子を刑務所で育てるのかという議論では「あー無理! 労働基準法に触れるわ! 休み取りたいわ! 休み取ってジェラート食べたいわッ!」と壁に向かって労働者の本音を全身全霊で嘆く。かと思えば、自分で育てたいという姫の願いを汲んで「女囚たちにとって子育てがいい影響を及ぼすのでは」と冷静に所長を説き伏せる。厳しく接しながらも、ときには勇介の成長に笑顔がこぼれることも。感情の振り幅が広いという意味では、母性ドバドバなおばさんたちと近いエネルギーを感じる。「“おばさん“ってワードに反応してガーッと行くとき、先生は反応しないんですね」初回から視聴者が気になっていたことがセリフになって出て来るのも、クドカン節。財テクがこうたずねると、「え、だって、私入ってる?」と、死んだ目をした検事・長谷川(塚本高史)に聞く。「入ってないって思ってるんだろうなーって思ってました」と、絶妙にイライラする答えもさすがだ。その後に続く、“おばさんワードにガーッ“という流れを繰り返し眺めていると、“おばさんのノリ“というひとつの団体芸に見えてくる。