『MOTHER FUCKER』特集第一弾
ISHIYAの『MOTHER FUCKER』評:日本のアンダーグラウンド史に残る傑作ドキュメンタリー
WARHEADのボーカルJUNが、作品中のインタビューで「谷さんはいつも助けてくれる」と言っているが、ここまで好きなことを貫き、それがすべて他者の助けであり、自分の助けにもなっている。そんな素晴らしさが、谷ぐち君の人生に宿っているため、ここまで多くの人間たちが集まってくるのだろう。しかも、それをアンダーグラウンドという世界でやるのだから、どこまでも縛られることなく自由である。どんな人間でも入ってこられる間口の広さのある、奇跡のような世界が、そこにはある。
自分を貫くバンドマンやミュージシャンは多くいるが、それが人のためになり、自然に成り立っている事実を知れば、社会や世の中のあり方についても、新しい視点を与えてくれるだろう。
そして両親の愛情をいっぱいに受けて育つ共鳴君も、自らバンドをやり始める。8歳にしてパンクバンドをやるなど、両親の影響以外に他ならないが、共鳴君自身の意思を尊重する両親の優しさと厳しさにより、彼の将来が希望に溢れていることが自ずと伝わってくる。YUKARIさんが狭いライブハウスの階段で、共鳴君を抱きしめながら頬ずりするシーンでは、両親の音楽やステージ、メッセージが、彼の幼い心の中で育まれていく様も手に取るように伝わってくる。
両親のステージングには凄まじいものがあり、共鳴君はこれを物心がつく前から五感で味わっているのだ。共鳴君が両親の友人たちと組んだバンド「チーターズマニア」の歌詞を聴くと、末恐ろしいバンドマンが誕生したと思わざるを得ない。
閉鎖的に見られがちなアンダーグラウンドシーンであるが、谷ぐちファミリーが引き寄せた世界には、面白さと「きっと何かある」という希望がある。谷ぐち君が介護する「マイメン」の笑顔や、共鳴君、YUKARIさんの姿や、関わりのあるバンド、友人たちを見れば、誰もが納得するだろう。
また、出演するバンドたちもかなり個性的で、ライブシーンの映像は「なんだこのバンドは!」と衝撃を受けるものも多い。この映画を観て彼らのライブに足を運んだり、あるいは音源を探してみるのも楽しみ方の一つだろう。
谷ぐちはたびたび「共生社会の実現」を謳うが、彼の姿勢を見ていると、それは不可能ではないと勇気が奮い立つ。家庭を持つ人間としても、彼らに憧れざるを得ない。どんな風に人との繋がりができているかで、人生は大きく違ったものになる。パンクとは、愛で成り立っている音楽なのだーーそう思わせてくれる『MOTHER FUCKER』は、間違いなく日本のアンダーグラウンド史に残る傑作である。
■ISHIYA
アンダーグラウンドシーンやカウンターカルチャーに精通し、バンド活動歴30年の経験を活かした執筆を寄稿。1987年よりBANDのツアーで日本国内を廻り続け、2004年以降はツアーの拠点を海外に移行し、アメリカ、オーストラリアツアーを行っている。今後は東南アジア、ヨーロッパでもツアー予定。音楽の他に映画、不動産も手がけるフリーライター。
FORWARD VOCALIST ex.DEATH SIDE VOCALIST
■公開情報
『MOTHER FUCKER』
8月26日(土)〜9月8日(金)渋谷 HUMAX シネマにてレイトショー
9月9日(土)〜9月15日(金)シネマート心斎橋
9月16日(土)〜9月22日(金)シネマート新宿
9月23日(土)〜9月29日(金)名古屋シネマテーク 以降、広島・横川シネマほか全国順次公開
出演:谷ぐち順、YUKARI、谷口共鳴ほかバンド大量
監督・撮影・編集:大石規湖
企画:大石規湖、谷ぐち順、飯田仁一郎
制作:大石規湖、Less Than TV
製作:キングレコード、日本出版販売
プロデューサー:長谷川英行、近藤順也
配給:日本出版販売
1:1.78/カラー ステレオ/98分/2017年/日本
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公式サイト:mf-p.net