『フェリシーと夢のトウシューズ』が大人に届けるメッセージ 夢の描き方にこだわった演出を読む

『フェリシー~』演出を読む

演出力の高さでカバーする子供向けの描写

 作品全体を通して、使用される楽曲はアップテンポなポップスである。アニメーション特有のキャラクターの歌う品行方正なオリジナルソングではない。ノリノリのポップスと、少し積極的でルックスのいいヒーローたち。キャッチーな演出の中には観客を飽きさせない、監督の強引さが遺憾なく発揮されている。大人が見ていて、少しご都合主義かな、と思われそうなシーンでは先述のようなノリのいい音楽と、ちょっと大げさなアクションのアニメーションを駆使してMVを観ているような軽快さでカバーしている。作品全体を通してストーリー展開のテンポも早く、あっという間にフェリシーのいる世界へ入り込ませる力もある。フェリシーやバレエのレッスンをするシーンや、オデットからの特訓を受けるシーンなど、シチュエーションが変わりにくいシーンでは特に積極的にキャラクターに動きをつけた。こうした工夫は、大人の観客が観ていて白々しいと感じないで済んだ要因であろう。テーマ性の高さだけでなく、監督の演出力の高さが光った作品でもあった。

 子供だけが前向きになれれば良い、大人はそのサポーターだ。そんな風に思わなくてもいいじゃないかと投げかけられているような気がした。今こそ襟を正し、新しい何かに挑戦するのもいいのかもしれない。スタートすることに戸惑う気持ちというのは、案外大人の方が多いのだ。子供から背中を押されるというのも悪くないじゃないかと感じた。この夏は挑戦しよう。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■公開情報
『フェリシーと夢のトウシューズ』
8月12日(土)、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
声の出演:エル・ファニング、デイン・デハーン、カーリー・レイ・ジェプセンほか
日本語吹替え:土屋太鳳、黒木瞳、花江夏樹、熊川哲也、夏木マリ
監督:エリック・サマー、エリック・ワリン
脚本:キャロル・ノーブル、エリック・サマー、ローラン・ゼトゥンヌ
振付:オレリー・デュポン、ジェレミー・ベランガール
2016/フランス・カナダ/シネスコ/89分/5.1ch/英語
原題:BALLERINA/日本語字幕:稲田嵯裕里
配給:キノフィルムズ
(c)2016 MITICO - GAUMONT - M6 FILMS - PCF BALLERINA LE FILM INC.
公式サイト:www.ballerina-movie.jp

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