『午後8時の訪問者』ダルデンヌ兄弟が語る、“引き算でリズム感を生む”演出術
「映画には緊張感を生み出すためのリズムが必要」
ーーあなたたちの作品の撮影では、かなり入念なリハーサルが行われるそうですね。
リュック:今回のリハーサルは、すべてのシーンをビデオに撮りながら5週間ほど行いました。リハーサルで私たちが特に大事にしているのは、体の動きです。カメラで撮りながら実際のセットで本番の動きをやってもらいます。私たちは「この人物はこういう人だからこういうことを考えていて……」というような指示の仕方は一切しません。まずはその人物として動いてもらって、「動きが少し違う」「速さが少し違う」といったような指示をしていくんです。実際の動きを見ながら、マイナスなポイントを改善していくので、演技をつけるというよりは、“引き算”をしていく作業なんです。
ジャン=ピエール:私たちはリハーサル時に何度も何度も同じことを繰り返していきます。繰り返しをすることによって、いつの間にか私たちが本当に求めている動きが出てくるようになるんです。それに加え、リズム感も指示しています。例えば、「沈黙のあとに5つ数えてからセリフを言ってください」など、セリフを言うタイミングも細かく指示をしています。
ーー役者によるアドリブも一切受け付けないんですよね?
ジャン=ピエール:アドリブは一切ありません。床に印をつけて、必ずそこで止まって演技をしなければいけないというようなことはもちろんなく、そこまで厳格というわけではありませんが、私たちは1シーン1カットで長回しで撮っているので、リズム感や動きを早めに決めておかないといけないんです。伝えたいことを語るためには緊張感が必要で、その緊張感を生み出すためにはリズムが必要で、そのリズムは事前に練習しておかないと生み出せないものなのです。私とリュックの間では最初から何となくそのリズム感が共有されていますが、リハーサル時に役者も含めて決め込んで、最終的には決めた通りに撮影を行なっていきます。
ーークリスティアン・ムンジウやジャック・オーディアールなどの作品の共同製作も行いながら、2〜3年に1本のペースでコンスタントに作品を取り続けていらっしゃいますね。そのバイタリティはどこから生まれているのでしょうか?
ジャン=ピエール:それは私たちにもわかりません(笑)。でもこれが私たちのリズムだと考えています。これまでは3年に1本のペースでしたが、今回は1年短く、前作の『サンドラの週末』から2年しか間が空いていません。それは随分前からストーリーの構想があったからだと思います。
リュック:私たちは脚本と監督を兼任しているので、映画を1本製作するのにそれなりの時間がかかります。ただ、周りを見渡してみると、毎年作品を撮っているような監督もいますよね。ほかの脚本家が書いたシナリオを監督するのであれば、脚本家がシナリオを書いている間にほかの作品の撮影ができるので、もしも監督だけに専念するのであれば、私たちもそれぐらいのペースでもっとたくさんの作品を撮ることができると思いますよ(笑)。
(取材・文=宮川翔)
■公開情報
『午後8時の訪問者』
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて公開中
監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
撮影:アラン・マルコアン
編集:マリ=エレーヌ・ドゾ
出演:アデル・エネル、オリヴィエ・ボノー、ジェレミー・ レニエ、ルカ・ミネラ、オリヴィエ・グルメ、ファブリツィオ・ロンジォ―ネ
配給:ビターズ・エンド
2016年/ベルギー=フランス/106分/カラー/原題:La Fille Inconnue
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