『A LIFE』木村拓哉と浅野忠信はなぜ“解放”された? 相田冬二が三つのトライアングルから考察

 表情と言えば、沖田がついに深冬の手術方法を発見する七話で木村拓哉は何度か信じがたいほど感動的な表情を浮かべるのだが、その最高峰に位置するのが、「私の最後の患者をよろしくお願いします」と伝えに来た深冬を見送る沖田の顔である。あれは何だったのだろう。そこでは、哀しみと光が共にあり、別れと未来がランデヴーしていた。せつないのに、さわやかなのである。いまにして思えば、あの顔は、沖田と深冬が離れ離れになる予感だったのではないか。木村拓哉は、これまでのドラマや映画でも、予感に満ちた芝居を繰り広げてきた屈指の演じ手である。しかし、人物の無意識を、ここまで鮮やかに体現したことはなかったかもしれない。竹内結子のあの素晴らしい表情は、このときの木村拓哉がもたらした顔からの、時間差の反射だったのかもしれない。そう考えると、このドラマのスケールの大きさも体感できるような気がする。

 第二のトライアングルは、柴田によって抹消される。いや、それは抹消ではなく、昇華だったのかもしれない。すべてが終わり、シアトル行きを決意した沖田に柴田は「ついていかない」と告げる。もし、あそこで柴田が沖田についていったら、井川のベクトルはこれまでとは別なものになっていたかもしれない。別な三角形が生まれていたかもしれないのだ。だが、柴田は沖田への敬意を敬意として留めておくために、病院に残った。それが即、柴田と井川の交際に発展するわけではないことは、井川が留学を視野に入れていることからも明らかだろう。つまり、沖田がシアトルに帰還し、柴田が彼についていかなかったことによって、井川もまた解放されたのである。

 柴田も、深冬も、あらかじめ親離れが済んでいたことは重要である。当初、柴田が井川につっかかっていたのは、彼の甘えもさることながら、井川の親離れが済んでいないからだったのではないか。一方、院長、壇上虎之介(柄本明)のお嬢様である深冬は決してファザコンではなかった。彼女は虎之介に「この病院、好きよ」と微笑むが、あの笑顔こそ、深冬がとっくの昔に親離れを済ましていたことを証明していた。後半、顕著になるが、虎之介こそ、娘の存在に依存した典型的で愚かな溺愛親である。つまり、彼は子離れが済んでいなかった。

 榊原は壮大を否定した。柴田は沖田と井川を肯定した。そして、深冬は沖田と壮大を見つめた(その視線を、聡明な傍観と呼びたい。深冬は、榊原や柴田とは違って、男たちに、ああしろ、こうしろとは決して言わなかったからである)。そして、否定も、肯定も、傍観も、すべて、彼女たちなりの愛だったことが、全十話を観終えたいま、よくわかる。

 これは、<半人前>の男の子たちを、<一人前>の女たちが解放する物語である。そのために、彼女たちは愛を駆使した。真の主人公は、沖田でもなく、壮大でもなく、女たちだった。

 壮大が院長となる壇上記念病院には、深冬が、柴田が、井川が、そして羽村がいまもいる。<城>は残った。だが、幽閉されている者はもう誰もいない。扉は開け放たれている。

■相田冬二
ライター/ノベライザー。雑誌『シネマスクエア』で『相田冬二のシネマリアージュ』を連載中。otocotoで『Invitation』の元編集長・小林淳一と「SMAPとは何だったのか」緊急対談掲載中。最新ノベライズは『嘘の戦争』(角川文庫、3月10日発売)。

■放送情報
日曜劇場『A LIFE〜愛しき人〜』
毎週日曜よる9時〜9時54分
出演:木村拓哉、竹内結子、松山ケンイチ、木村文乃、菜々緒、及川光博、浅野忠信ほか
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/ALIFE/

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