宮台真司×富田克也×相澤虎之助 特別鼎談「正義から享楽へ 空族の向かう場所」

 社会学者・宮台真司の映画批評集『正義から享楽へー映画は近代の幻を暴くー』が、リアルサウンド運営元・blueprintより現在刊行されている。同著は、宮台真司がリアルサウンド映画部にて連載中の「宮台真司の月刊映画時評」を加筆・再構成し書籍化したもの。『シン・ゴジラ』『クリーピー 偽りの隣人』『バケモノの子』『ニュースの真相』など、2015年から2016年に公開された作品を中心に取り上げながら、いま世界に生じている変化などを紐解く。さらに、黒沢清との特別対談も収録。

 今回、リアルサウンド映画部では、同著に収録されている、2016年10月2日にシネマヴェーラ渋谷にて行われた、宮台真司と富田克也、相澤虎之助によるトークショーを再構成した特別鼎談の一部を抜粋して掲載する。なお、2月20日にはLOFT9 Shibuyaにて、評論家・中森明夫をゲストに迎えた宮台真司との刊行記念トークショーが控えており、富田が監督、相澤が脚本を手がけた空族の最新作『バンコクナイツ』も2月25日から公開されるので、そちらもあわせてチェックしてほしい。

“空族”のはじまり

『バンコクナイツ』より

宮台:“空族”の最新作『バンコクナイツ』は、いま皆さんが御覧になった『花物語バビロン』『バビロン2 THE OZAWA』に続く「東南アジア3部作」とも言えます。だから、皆さんには、是非『バンコクナイツ』(2月25日公開)も観ていただきたいと思います。さて、相澤監督と富田監督の出会いは『花物語バビロン』がきっかけだったそうですが、空族はそこから始まっているのですか?

相澤:『花物語バビロン』を作ったのは1997年で、翌年に仲間内の自主上映会みたいなものを中野ゼロホールでやりました。そこに富田監督が仲間たちと一緒に観に来てくれたんです。「富田克也」という存在は、それ以前から知ってはいたんですが、交流が生まれたのはこの時からでした。お互いが作った映画を観たり、映画の話をしたりしていくうちに、自然と仲良くなっていきました。

富田:『花物語バビロン』は8ミリフィルムで撮られていますけど、一度デジタルに取り込んでから字幕とかを付けていたんだよね。

相澤:当時は、今みたいにデジタル技術が全然発展していなかったので、字幕を入れるのはものすごく大変でした。最終的には読めない字幕にもなっていますけど(笑)。

宮台:それがかえって良かった。主人公の台詞、英語ナレーション、そして膨大な字幕という具合に、映像に次々と言語情報が重ねられます。あまりにも多声的で、どれに集中していいかまったく分からない。初めて観る人はビビっちゃうよ(笑)。 でも、街が多声的に語りかけてくるというのは重要なリアリティです。この手法をどんな考えで採用したんですか?

相澤:当時はまだ若かったので、実験映画みたいな感じのものがやりたかったんです。ハッキリ言ってしまえば、ゴダールの真似です(笑)。

宮台:富田監督はこの作品を最初に観たとき、どういう感想を持ちましたか?

富田:何のことだか分からずポカンとして劇場をあとにした記憶があります。当時僕はまだゴダールの名前さえも知っているか知らないかぐらいの知識でしたから(笑)。映画を撮りたいと思っていたけど、映画について右も左も分からずで、気がついたら日芸の映画学科の卒業制作に潜り込んでいたんです。そこで、のちに空族の一員となる高野貴子(『サウダーヂ』などで撮影を担当)の卒業制作を手伝っていて。大学生同士には独自のネットワークがあって、虎ちゃん(相澤虎之助)が所属していた早稲田のシネ研の情報も日芸まで流れてきていたんです。で、上映会を観に行ってみたら、鑑賞前に『花物語バビロン』についての辞書ぐらい分厚いレジュメを渡されて(笑)。映画はよく分からないけど、スゴイやつがいるというのが第一印象でしたね。

宮台:そういう風にして出会った二人が、フュージョンしていく。何が大きかったんですか?

富田:上映会をきっかけに、飲みに行ったり、互いの作品に出たりする機会が生まれていきました。決定的だったのは、今回の特集でも上映していただいた、『雲の上』(2003年 監督:富田克也)、『かたびら街』(2003年 監督:相澤虎之助)ですね。この特集上映会を渋谷アップリンクで開いていく中で、一緒に脚本書こうよ、という話になって『国道20号線』でついに共作になったという流れです。

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