すべてはおっぱいのためにーー青春映画『14の夜』はなぜ愛おしいのか?

 

 タカシが血を流しながらおっぱいのために走り、戦い、必死で手を伸ばす姿にどうしてこうも胸が熱くなるのかというと、おっぱいうんぬんを通り越して、これは彼にとって自分の人生を賭けた重要な戦いなのだと感じるからだ。それまで特に動こうとしなかった少年が、この停滞しきった自分の日常に対して、必死で抗っている。観客席にいる人生から抜け出そうと必死で抗っている。

 どうしようもないがそれだけに愛おしい。この映画はそんな雰囲気で溢れている。母親(稲川実代子)に甘え続ける、いつになっても大人になりきれない父親を演じる光石研の好演が光る。光石を中心にしたタカシの個性的な家族、田舎町をとんでもない迫力で彷徨うケメ子(後藤ユウミ)、味のあるレンタルビデオ屋の夫婦の掛け合い、何の肉を挟んでいるかよくわからない何かを売っている夜の屋台の主人(ガダルカナル・タカ)。どうしようもない少年少女と大人たち、そんな彼らの夜を暖かい黄色を帯びた光がやわらかく包む。

 12月24日、まさかのクリスマス・イヴ公開である。聖なる夜に、周囲の喧騒から離れておでんを食べたくなったあなたに、お薦めの一作だ。

(文=藤原奈緒)

■公開情報
『14の夜』
12月24日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
監督・脚本:足立紳
出演:犬飼直紀、濱田マリ、門脇麦、和田正人、浅川梨奈(SUPER☆GiRLS)、健太郎、青木柚、中島来星、河口瑛将
稲川実代子、後藤ユウミ、駒木根隆介、内田慈、坂田聡、宇野祥平、ガダルカナル・タカ /光石研
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
2016/113分/PG12
公式サイト:14-noyoru.com
(c)2016『14の夜』製作委員会

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