『逃げ恥』プロデューサーが語る、最終回に込めた想い 峠田P「どの生き方も否定しない」

『逃げ恥』Pが語る、最終回の見どころ

 スペースシャワーTVの高根順次プロデューサーによる連載「映画業界のキーマン直撃!!」第9回は、番外編として現在大ヒット中のドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)のプロデュースを手がける那須田淳氏と峠田浩氏にインタビュー。制作現場の雰囲気や伝えたいメッセージ、本日放送の最終回のポイントまで、じっくりと語ってもらった。(編集部)

那須田P「生き方の多様性を肯定するのは、ひとつのテーマ」

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左、那須田淳氏。右、峠田浩氏

ーー世間的にも大きな話題になった『逃げ恥』が、いよいよ最終回を迎えます。ドラマの大ヒットを受けて、現場の雰囲気も変わったのでは?

峠田:新垣さんや星野さんともよく話しているんですけれど、正直なところ、僕らにはいまだヒットしている実感があまりなくて(笑)。「視聴率が上がった」というときでも、「やった! 良かったね!」と一瞬はなりますが、そのとき以外は、マイペースというか、みんながそんな雰囲気だったので地に足が着いた状態だったと思います。ロケに行くと子どもたちが“恋ダンス”を踊っていてくれたりして、「本当に流行っているんだ」って実感したくらいです。あくまで自分たちのペースでやりたいことをやっていける環境が『逃げ恥』にはあったのかなと思います。

ーー“恋ダンス”は、ドラマが大ヒットした一因だと思います。企画の当初からアイデアはあったのですか?

那須田:はい。火曜日の枠だったため、視聴者の方が1日頑張ったご褒美として楽しく観ることができるドラマにしたいという考えは、当初よりありました。また明日から学校や仕事、あるいは家事を頑張ろうと思ってもらえるような作品にしたくて、最後にダンスを入れるというアイデアがあったんです。また、改めて連続ドラマならではの面白さをアピールする上でも、タイトルバックとしてダンスを入れるのは効果的だと考えました。
 ちょうど企画を練っていた頃に、『コウノドリ』に出演してもらった星野くんのライブを観て、「SUN」みたいな明るくて楽しい楽曲を提供してもらえたら、すごくハマるんじゃないかなって。ライブではELEVENPLAYがバックダンサーを務めていて、それがすごく可愛かったのもあって、ドラマでもうまく連動していきたいなと。実際、“恋ダンス”の振り付けと、星野くんのPVでのELEVENPLAYの振り付けは、基本的に一緒なんですよ。

峠田:ただ、思っていたよりずっと反響は大きかったですね。“恋ダンス”っていう呼び名は、あまりにも評判が良かったので、改めて付けたものでした。最初は“逃げ恥ダンス”って呼んでいたんですけれど、番組から離れたところでも、もっと浸透してもらいたいという思いもあり、より親しみやすいものにしました。

ーーたしかに『逃げ恥』には、多くの人が親しみやすさを感じていると思います。ただ一方で、社会派ドラマとしての側面も持っている作品です。那須田さんは前期で好評を博した『重版出来!』のプロデューサーも務めていますが、テレビドラマに社会性のあるテーマを盛り込むことを、どれくらい意識しているのでしょう?

那須田:社会性のあるテーマは大事ですね。テーマがあるからこそ、笑いの部分だったり、恋愛の部分が際立って、作品の中にいろいろな楽しみを盛り込むことができる。ただ、ひとつの重厚なテーマに向かって突き進むのではなく、多くの方にとって身近なテーマを選択しつつ、さまざまな解釈ができる余白を残すことは意識しました。もちろん、ひとつのテーマに徹底的に向き合う作品もあって良いと思うのですが、連続ドラマの良いところは、いろいろな楽しみ方ができるところだと思うんです。『重版出来!』にしても『逃げ恥』にしても、就職、仕事、家庭、恋愛、結婚など、いろんな世代の方が自分に置き換えて観ることができる、身近なテーマをたくさん盛り込んでいます。10代の方が観たら、将来の理想像を考えるかもしれないし、20代の方が観たら、自分の恋愛と重ねるのかもしれない。あるいは40〜50代の方が観たら、新婚時代を思い出すのかもしれない。誰もが通る道を、主人公たちを通して描くことで、幅広い方々に興味を示してもらえるように意識しました。楽しみながら観てもらって、そのうえで「自分ならこうする」って部分を見つけてもらって、翌日からの生活に還元してもらえたら、すごく嬉しいなと。

ーー『逃げ恥』の登場人物は、性別も年代も様々で、生き方もそれぞれです。

那須田:みくりみたいな生き方、津崎みたいな生き方、百合ちゃんみたいな生き方、みんなちょっと変わっているけれど、どの選択も正しいんだっていうことは、ひとつのテーマです。生き方の多様性を肯定するというか。実際に仕事をしていても、会社やチームの中にはいろんなキャラクターの人がいて、それぞれ違う方向を向いているのだけれど、その掛け算によってこそ奇跡って生まれるんですよね。

ーー『重版出来!』と『逃げ恥』はどちらも漫画原作で、野木亜紀子さんが脚本を務めています。原作を読んだうえでドラマを観ると、そのさじ加減も絶妙だなと感じます。

那須田:僕は最初、映画の『図書館戦争』で野木さんとご一緒したのですが、恋愛未満の状態にある男女間の会話を、とても楽しく描くことに秀でた方ですよね。クスッと笑えるのだけれど、その中にちゃんとテーマ性を見つけられるというか。『重版出来!』でお願いしたときから、こうした作品にはぴったりの方だと感じていて、今回はあまり細かい打ち合わせはせず、野木さんにお任せしています。

峠田:野木さんがすごいのは、マイノリティの方を含めて、とてもフラットな視点で人々を捉えているんですよね。よく「『逃げ恥』には悪人が出てこない」って言われるのですが、彼女は人間描写を大切にしていて、それぞれの考え方や言い分をきちんと消化したうえでセリフを描いているので、どの立場のキャラクターにも人情が滲んでいるんです。また、漫画をドラマ脚本に書き換えていくのも非常に巧くて、たとえば登場人物のあるセリフを、原作とは別のシーンで言わせたりするのですが、効果的に登場人物の心情を表していることも多くて。物語を組み替えても、伝えるべき本質はズレていない。それができるのは原作への理解度がとてつもなく深いからで、新たに紡ぎ出されたドラマを観て、僕自身も感銘を受けることは多かったです。

那須田:原作者の海野つなみさんと、早い段階から同じ方向を向くことができたのも良かったです。原作モノを手がける際は、最初にどんなドラマにしたいか、しっかりとビジョンを伝えるのですが、今回はとくにスムーズで、台本も楽しく読んでいただけたみたいです。

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