来年1月スタートのTBSドラマ、 坂元裕二脚本『カルテット』に寄せる絶大な期待

 世に「ドラマ好き」という人種がいるとしたら、そんな人種から現在コンスタントに作品を発表している脚本家の中で最も厚い信頼が寄せられているのは坂元裕二をおいてほかにいないだろう。まだ10代の頃に第1回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞してデビュー、トレンディドラマ・ブームの決定打となった『東京ラブストーリー』(フジテレビ)の脚本を手がけたのは23歳の時(わりと見過ごされている事実だが、あの脚本を書いたのが当時の織田裕二や鈴木保奈美と同世代の脚本家であったことは重要だったと思う)。そんな坂元裕二にとって、デビュー30周年(それでもまだ40代!)である2017年の最初の仕事が、来年1月からTBSでスタートする新ドラマ『カルテット』だ。

 坂元裕二の脚本家としてのキャリアは「早熟にして遅咲き」という、ちょっと変わったものだ。80年代後半の時点で超人気脚本家となった坂元裕二だが、その「作家性」に世間から広く注目が集まるようになったのは2010年代に入ってからと言っていいだろう。育児放棄をはじめとする現代の「母と子」を取り巻く社会的な問題を真っ向から描いた2010年の『Mother』(日本テレビ)は、この手のシリアスでヘヴィなドラマとしては近年異例の高視聴率を記録し、芦田愛菜を一躍国民的スターにしただけでなく、脇役の尾野真千子や綾野剛にとってもブレイクのきっかけとなった。今年に入ってからトルコと韓国でそれぞれリメイクの制作が進んでいることが相次いで発表されるなど、放送から6年が過ぎた今もその評価と影響力は海を越えて広がっている。

『Mother』に続いて、少年凶悪犯罪の「加害者の家族」と「被害者の家族」の邂逅を描いた2011年の『それでも、生きていく』(フジテレビ)で社会派ドラマの脚本家としてさらなる高みに到達した坂元裕二であったが、東日本大震災直後の重苦しいムードの中で放送された同作から一転、まさにその震災の日に東京で出会ったのちに結婚した若い夫婦を中心とする4人の男女の心理劇『最高の離婚』(フジテレビ)で、今度はコメディの作り手としての評価も確固たるものにする。その頃には、勘のいい人なら、坂元裕二の作家性は社会派やコメディといったジャンルに紐付いているのではなく、台詞の掛け合いの精巧なやり取りと独特のリズムそのものにあるのだということに気づいていたはずだ。そして、それこそが「ドラマ好き」が坂元裕二作品に夢中になっていった理由だった。今年の『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ)最終回クライマックスの主人公2人の約15分に及ぶファミレスでの会話劇は、まさにそんな坂元裕二脚本の真骨頂であった。

 先日解禁された新作『カルテット』の情報は、いくつかの大きなサプライズをともなうものだった。一つは、この30年間、脚本家デビューの恩もあるフジテレビ以外、連ドラでは日本テレビとNHKでしかほとんど仕事をしてこなかった坂元裕二の新作が、TBSで実現したこと。過去に坂元裕二がTBSで手がけた連ドラは2008年の『猟奇的な彼女』1本だけ。まだ『Mother』以降の「坂元裕二黄金期」が始まる前、当時の韓流ブームの中で作られた韓国映画のリメイク作であった同作は視聴率的に苦戦。ちなみに、同作で演出チーフを務めていた土井裕泰は、今回の『カルテット』でも同じ立場で演出を手掛けることになる。近年、土井裕泰演出作品は『映画 ビリギャル』『重版出来!』『逃げるは恥だが役に立つ』と脂が乗り切っているだけに、坂元裕二とは最高のタイミングでの再タッグ&オリジナル作品でのリベンジということになる。

 そして、これはサプライズはサプライズでも一点の曇りもない歓喜のサプライズと言うしかないが、近年、映画界から頻繁に声がかかるような人気と実力のある役者たちから敬遠されるようになってきた民放の連ドラにおいて、松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平というあまりにも魅力的な役者陣が勢揃いしていることだ。満島ひかりと高橋一生は坂元裕二作品の常連でもあるわけだが、満島ひかりは『WOMAN』(日本テレビ)以来の待望となる坂元裕二作品への主演クラスでの出演、高橋一生は『シン・ゴジラ』での認知度アップを経ての民放の連ドラ主演クラス初抜擢ということで、それだけで坂元裕二ファンにとってはもう満腹状態。そこに、さらに松たか子と松田龍平が加わるわけだからたまらない。

 松たか子が民放の連ドラに出演するのは2012年の『運命の人』(TBS)以来、5年ぶり。その前は2006年の『役者魂!』(フジテレビ)になるので、この10年で2回しか連ドラには出ていないことになる。来年で役者歴18年となる松田龍平も、民放連ドラへの出演は今回の『カルテット』でまだ3作目。2人とも坂元裕二作品への出演は今回が初めてだが、彼らの出演を後押ししたのも、その脚本への信頼に違いない(ちなみに松たか子と坂元裕二は「役者と脚本家」としてではなく「シンガーと作詞家」という関係で、これまで素晴らしい作品をいくつか残している)。

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