コメディに『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』方式を応用!? 『世界の果てまでヒャッハー!』の衝撃
ファウンド・フッテージ内で描かれる奇想天外なアドベンチャー
とはいえ、『世界の果てまでヒャッハー!』はあくまでコメディ。作り手たちは本作の構想を練るにあたって、かつて少年時代に熱狂した『ロマンシング・ストーン/秘宝の谷』などの冒険映画を参考にしたそうで、その持ち味をよりによってファウンド・フッテージと掛け合わせてしまったところに本作の大胆不敵さがある。
そもそもハンディカム映像を多用するということは、長回しが多用されることにもつながるではないか。回しっぱなしのカメラの隅々でおかしな事件や事故、それにアマゾンの奥地に暮らす原住民との遭遇なども待ち受けているわけだが、いずれも一発勝負の混沌にのまれていく様子が臨場感あふれる映像として活写されていて興味深い。中でも本作のハイライトと言えるのが、飛行中の小型機からのスカイダイビング・シーン。一連の流れをずっと目撃しっぱなしの観客からすれば、今この瞬間、機内ですったもんだした末に大空へとダイブしていくのがスタントマンではなく紛れもないキャスト本人であることは一目瞭然だろう。
もちろん11メートルの高さの崖から川に飛び込むという危険なシーンもキャストが自らこなしているという。ここには、かつての『ブレア・ウィッチ』の頃とは一味も二味も違う現代版“ファウンド・フッテージ”のあり方が見え隠れする。というのも、YouTubeの時代となり世の中にはハンディカムやウェアラブル・カメラで撮られた刺激的、超絶的な映像が尋常でないほど溢れているわけである。それらを見慣れた観客を驚かせるのは並大抵のことではない。唯一の打開策といえば、キャスト自ら身体を張ってリスクを取ることくらい。
さらに、昨今のヒット映画における“ライブアクション”を重視する潮流も彼らを率先して挑戦へと向かわせた要因と言えるだろう。思えば『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』ではスタッフとキャストが一致団結してグリーンバックやスタントマンに頼らないリアルな映像を追究したのも記憶に新しい。何を血迷ったのか『ヒャッハー!』チームも高すぎる理想を掲げて突っ走り、気がつくと嬉々として限界を超え、結果、とんでもないシロモノを完成させてしまったというわけだ。
お下劣なシーンもあるし、かなりヒヤヒヤさせられる危険な描写もある。もしかすると全編通して一向に笑えなかったと主張する人もいるかもしれない。ただし、ストーリーを単調に追いかけても面白味のない本作が、ひとたび“ファウンド・フッテージ”という語り口を獲得するや映画に二重、三重の“うねり”が生まれ、そこに香るリアリティの魔法が観客とキャラクターとの心の距離をグッと近づけてしまうことだけは確かだ。その意味でも一見の価値ありと言えよう。
ちなみに『ヒャッハー!』には前作があり、こちらもフランスで大ヒットした作品らしい。日本の配給会社が続編の方を先んじて発掘してしまったのも、まさしく“ファウンド・フッテージ”物らしいところ。いつの日か眠れる前作が発掘される日はやってくるのだろうか。
■牛津厚信
映画ライター。明治大学政治経済学部を卒業後、某映画放送専門局の勤務を経てフリーランスに転身。現在、「映画.com」、「EYESCREAM」、「パーフェクトムービーガイド」など、さまざまな媒体で映画レビュー執筆やインタビュー記事を手掛ける。また、劇場用パンフレットへの寄稿も行っている。Twitter
■公開情報
『世界の果てまでヒャッハー!』
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中
脚本・監督:ニコラ・ブナム、フィリップ・ラショー
出演:フィリップ・ラショー、ジュリアン・アルッティ、クリスチャン・クラヴィエ、アリス・ダヴィッドほか
提供:日活、ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
2015/フランス/DCP/93分/R15+/原題:All Gone South
(c)AXEL FILMS – MADAME FILMS – M6 FILMS – CINEFRANCE 1888
公式サイト:www.hyahha-movie.jp