『ハイキュー!!』は現代のバレーボール版『SLAM DUNK』? 人気の秘訣は“コンビ”にアリ
「負けたくないことに理由っている?」。これは、『ハイキュー!!』の主人公・日向翔陽の言葉だ。誰しもが一度は抱いたことがある“勝ちたい”という感情。思春期をピークに、人は徐々に繊細で尖っていた感覚が鈍っていく。いつからか忘れてしまい、心の奥底に燻っていたアツい想い。そんな感情を刺激し、呼び起こしてくれるアニメが、現在放送中の『ハイキュー!! 烏野高校 VS 白鳥沢学園高校』だ。
同アニメの原作漫画『ハイキュー!!』は、古舘春一により2012年から週刊少年ジャンプにて連載されている青春スポーツ漫画。単行本(既刊23巻)の累計部数が2000万部を越えるほどの人気コミックであり、今回アニメとしては第3期となる。類稀なる運動神経とバネを持った小柄な少年・日向翔陽が、「堕ちた強豪、飛べない烏」と呼ばれる宮城県立烏野高校バレー部に入部し、個性豊かなメンバーたちとともに全国大会を目指す模様を描く。いわゆる、王道スポ根漫画(アニメ)だ。これがもう、たまらなく面白い。作品の世界に惹きこまれ、まるで『ハイキュー!!』の登場人物たちと一緒に生きているかのような錯覚をおこす。気づいたら彼らとともに一喜一憂している自分がいるのだ。その感覚は、井上雄彦による名作マンガ『SLAM DUNK』を連想させた。
実際、『SLAM DUNK』との類似点が少なくない。例えば、メインとなる2人のキャラクターだ。『SLAM DUNK』は、主人公・桜木花道と流川楓という1年生2人を軸に物語が展開されていく。桜木は高校からバスケをはじめた全くのド素人だが、長身かつ抜群の運動センスを持つ。流川は、中学の頃からスタープレイヤーとして名を馳せており、“天才”ルーキーと呼ばれるほど圧倒的な才能の持ち主。そんな2人は犬猿の仲でありながらも、互いを意識しあい、結果的に切磋琢磨しながら成長していく。
一方の『ハイキュー!!』もまた、メインキャラクターは日向と影山飛雄の2人。初心者ではないものの、中学時代は環境に恵まれず、まともに練習や試合ができなかった日向。そのため、バレーの基本すらままならない。また、桜木とは対象的に身長も低いが、身体能力の高さや勝利への執着の強さなど、高いポテンシャルを秘めている。“コート上の王様”という異名を持つ影山は、中学時代から有名な“天才”セッター。正確すぎるトスや高い視察眼など能力の高さは折り紙つきだ。そんな2人もまた、はじめの頃はケンカが絶えないが、徐々にコンビとしてチームの要になっていく。桜木と流川は最後まで犬猿の仲であるが、日向と影山は徐々に相棒になっていくなど、細部の違いはあるものの共通点が目立つ。
ほかにも、『SLAM DUNK』のメガネ君こと木暮公延と『ハイキュー!!』の菅原孝支、三井寿と東峰旭、宮城リョータと西谷夕などといった、立ち位置やエピソード、特徴が似ているキャラクターも。また、何より『SLAM DUNK』はスポーツ漫画にありがちな“必殺技”や能力のインフレといった“超人設定”がなく、あくまで現実的。『ハイキュー!!』もまた、“変人速攻”などの多少現実味にかける技はあるものの、基本的にはリアリティー溢れた設定になっている。
もちろん、大きな相違点もある。例えば、『SLAM DUNK』の(神奈川県立湘北高校)監督である安西光義(安西先生)は、元・全日本の選手であり、かつては大学で監督もしていた優秀な指導者。一方の『ハイキュー!!』の監督(顧問)である武田一鉄は、バレー経験がなくルールも理解していない全くの素人と、対照的だ。作中で武田先生は、ルールや作戦、なぜこの練習をするのかなどを説明する役割を果たしているため、『ハイキュー!!』はバレーに詳しくない人でも楽しめる。『SLAM DUNK』の桜木もそうだが、スポーツ漫画にとって“初心者”はかかせない存在となっている。
また、『SLAM DUNK』は不良要素も含まれているが、『ハイキュー!!』は部活動に心血を注ぐ普通の男子高校生だ。常にゲーム機や音楽プレイヤーを持ち歩く“現代っ子”のキャラクターも目立つ。ほかにも、烏野高校のレギュラーである、毒舌で常に冷静な月島蛍や、気性が荒く強面だが頼れる田中龍之介、ピンチサーバーの山口忠など、『ハイキュー!!』ならではの個性が強いキャラクターも登場する。
さらに、『ハイキュー!!』と言えば、男性同士の友情が描かれていることから『テニスの王子様』や『黒子のバスケ』などと同じく女性人気が高い傾向があるが、中でも女性を惹きつける大きな要因となっているのは“コンビ”感が強いことだろう。日向(ミドルブロッカー)と影山(セッター)はもちろんのこと、月島(ミドルブロッカー)と山口(ミドルブロッカー)、西谷(リベロ)と東峰(ウイングスパイカー)といった烏野高校の面々をはじめ、ライバル校である青葉城西の及川徹(セッター)と岩泉一(ウイングスパイカー)、音駒高校の黒尾鉄朗(ミドルブロッカー)と孤爪研磨(セッター)、梟谷学園の木兎光太郎(ウイングスパイカー)と赤葦京治(セッター)など、主にセッターを軸としての“2人1組”ができている。
バレーと言えば花形はやはり“アタッカー”だろう。しかし、アタッカーがスパイクを打つためのボール(トス)をあげるセッターは、試合で最もボールを触る回数が多く、かつ、チームを支える司令塔。いわば、ゲームの支配者である。だからこそ、『ハイキュー!!』もセッターにスポットを当て、“アタッカー”との関係性を丁寧に描写している。また、セッターであるキャラクターを丹念に描くからこそ、日向ら“アタッカー”が輝くのだ。