『べっぴんさん』怒涛のスピード展開は吉と出るか? 芳根京子ら若手女優の好演に期待
連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『べっぴんさん』が放送されて二週間が経った。本作は神戸と大阪を舞台に戦後の焼け野原から立ち上がる女性たちの姿を描いた物語だ。芳根京子が演じるヒロイン・坂東すみれのモデルは、アパレルメーカー・ファミリアの創業者のひとり坂野悼子。戦前・戦中・戦後を舞台に女性実業家を主人公にした女の一代記という意味で、近年の朝ドラの必勝パターンを押さえた手堅い設定となっている。
第二週まで見た印象としては、とにかく展開が速いということ。第一週でヒロインの幼少期を描くのは、朝ドラの定番だが、第6話ですみれが成長して以降、初恋、失恋、結婚、妊娠、出産、終戦といった普通の朝ドラなら三ヶ月以上かけて描くことを、二週目で一気に終わらせてしまったのだ。
先述したように、朝ドラは戦前・戦中・戦後を通して女の一代記を描くという形式が出来上がっている。そのため、各作品のオリジナリティは、ヒロインの職業と、その業界の描写にかかっており、本作なら、子ども服の会社を立ち上げる部分がそれにあたる。おそらく、すみれの仕事をしっかりと描くために、あえて序盤の展開は短縮したのだろう。
もちろん、主人公が成長した先週の土曜日から数えれば100分近い時間は費やしている。つまり一本の映画くらいはすでに時間を使っているのだが、一話完結の作品と半年にわたる連続ドラマとでは時間の感覚が異なる。毎朝放送されるという形式を利用して視聴者の生活習慣と作中の時間感覚をシンクロさせて、同じ日常を送っているかのような状態を作ることでドキュメンタリー的な感覚を疑似的に作り出してきたことが朝ドラの強さだったのだが、それを本作は見事に放棄してしまったように見える。良く言えば「攻めのスタイル」だが、視聴者との間に「朝ドラのお約束」が共有できているから「ある程度、省略しても大丈夫」という計算もあるのだろう。
しかし、それはあくまで朝ドラファンという内輪でのみ成立するお約束でしかない。今や朝ドラは、平均視聴率20%を超える人気ドラマ枠だが、はじめて朝ドラを見た人は「何なんだ。この展開の速さは?」と唖然としたのではないかと思う。正直に言うと、筆者はこのスピードについていけなくて、作品に入り込めずにいる。
このあたりは、脚本の渡辺千穂が過去に執筆した『泣かないと決めた日』や『ファースト・クラス』(ともにフジテレビ系)にあったエクストリームなスピード感が反映されているのかもしれない。その真価が問われるのは今後の展開次第だが、もったいないなぁと思ったのは、もっともおいしいパートとなる、中心人物の坂東すみれ、多田良子(百田夏菜子)、田坂君江(土村芳)たち手芸部の面々の女学校時代の描写を早々と切り上げてしまったことだ。後にこの三人は会社を立ち上げることになるのだが、だったら尚更、じっくりと学生生活を見せた方が、後になって生きたのではないかと思う。
前作『とと姉ちゃん』もそうだったが、最近の朝ドラは、作り込んだセットや、空間の広がりを表現するような映像面の演出に関しては申し分ないのだが、肝心の物語の転がし方は、極端にあっさりしていたり、逆に泣かせの場面になると極端に冗長だったりして、物語内における時間の感覚の見せ方がすごく下手くそに感じる。