森山未來、『怒り』で見せた底知れぬ恐ろしさ 実力派俳優の衝撃的な演技を読む

森山未來『怒り』で見せた“怖さ”

 ある時を境に、田中は急に感情を爆発させる。辰哉の両親が経営する民宿で、お客の荷物を乱暴に外に投げ始めるのだ。その後はもう、手がつけられないほどに暴れまわる。清々しいほど豪快に、水槽をはじめ様々なものをぶっ壊していく。たっぷり凝縮されたような“怒り”が狂気となり、熱く、激しく、全身からぶちまけられる。そのあまりに“異様な光景”に、一瞬思考が追いつかず、観客はおいていかれる。その後からジワジワと沸き立つ、これでもかという程の“恐怖”。その怪演ぶりに鳥肌が立った。

 どれが本当の田中だかわからない。最後まで、謎に包まれた男。決して自分のことは語らず、また人物の背景も描かれていない。そのため、すべてが真実でもあり偽りでもある。ある意味で透明人間のような田中をリアルに演じた森山は見事としか言いようがない。見るものに多種多様な印象を与え、各々の田中を作りあげるような柔軟性と幅。一つひとつの表情、仕草、声、話し方、すべてが田中そのものであった。感情の表現方法が驚くほど豊かで自然なのだ。

 森山未來が、こんなにも見るものに恐怖を与える役者だったとは。久しぶりにスクリーンで目にした彼は、あまりに衝撃的すぎた。

(文=戸塚安友奈)

■公開情報
『怒り』
全国東宝系にて公開中
監督・脚本:李相日
原作:吉田修一「怒り」(中央公論新社刊)
出演:渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、広瀬すず、佐久本宝、ピエール瀧、三浦貴大、高畑充希、原日出子、池脇千鶴、宮崎あおい、妻夫木聡
配給:東宝
(c)2016映画「怒り」製作委員会
公式サイト:www.ikari-movie.com

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アクター分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる