『闇金ウシジマくん』山口雅俊監督 × 岩倉達哉Pが語る、シリーズ6年間の挑戦と進化
岩倉「山口さんのキャスティングへのこだわりはものすごい」
——ドラマ、映画と、作品を重ねるごとに、つくりやすくなっていきましたか?
山口:そうですね。山田君の俳優としての飛躍的な成長とともに、山田君と共演したいという若手が増えたので、キャスティングはとてもしやすくなりました。
岩倉:山口さんのキャスティングへのこだわりはものすごいですよ。ここまで続いた大きな理由のひとつだと思います。オーディションで、尋常じゃない数の俳優に会うんです。
山口:オーディションかオファーです。
岩倉:スターダスト・プロモーションの役者がたくさん出ている〈Part2〉でバーターを疑われましたが、天地神明に誓ってしていません。「この作品で、この役を演じるあなたが必要です」と、必死に頭を下げて出てもらっています。柳楽優弥くんがストーカー役を演じたのも、さっき山口さんが言った「びっくりさせたい」に通じています。あの時期の柳楽くんがあの役をやるとは世の中も思っていなかったし、菅田将暉くんや窪田正孝くんも今の2人じゃないタイミングでキャスティングできたことは山口さんのこだわりの結果です。ただ、山口さんの要望に応えなければいけないキャスティング・ディレクターは大変です(苦笑)。〈Part2〉の高橋メアリージュンさんの役はクランクインしても決まらなくて、撮影現場に候補者を呼んでオーディションを続けてますからね。
——えー!
岩倉:山口さんは、数々の修羅場をくぐり抜けてきたからか、慌てないんです。僕は心臓が小さいから、インした段階で決まらないキャストがあるなんてありえない。撮影がどんどん進むなか、キャスティング・ディレクターと新宿の喫茶店に缶詰状態で「この人どうでしょう」と焦りっぱなしでした(苦笑)。
山口:映画と連ドラの違いはありますよね。10日後にオンエアしなければいけないゴールデンの連ドラで3ページしか脚本が上がっていないなんて経験に比べたら、映画はなんとかなるんですよね。撮り順を変えればいいじゃんって。
——簡単におっしゃる(笑)。
岩倉:「まだ(他にいい役者が)いるんじゃないかなあ〜」ってボソっと言うんですよ。「いやいやいや! 隅から隅まで探しましたよ!」って説得にかかるんですけど聞いてもらえず(笑)。でも結果、高橋メアリージュンに出会えたんで、妥協せず粘る意味ってあるんですけどね。
山口:キャスティングでものすごく大きかったのは、〈Part1〉に、当時AKB48でセンターを張っていた大島優子さんがヒロインとして出演してくれたことですね。
岩倉:総選挙で1位に返り咲いた絶頂期でした。山田孝之を筆頭に若手俳優たちが芝居合戦をするという図式がまだ確立できていない段階で、こちらの熱意を汲んで思い切って飛び込んでくれた功績は大きいですし、とても感謝しています。
——『闇金ウシジマくん』シリーズが、危険な題材でありながら、メジャーで息の長いコンテンツとなったターニングポイントのひとつが大島優子だった。
山口:そう思います。
山口「お金の本質の恐ろしさを伝えたい」
——山口さんは、なぜドラマや映画をつくるのでしょう? さきほどおっしゃったように「びっくりさせたい」から?
山口:新しいジャンルの提示ですとか、例えばお金とはなんなのか、お金の本質の恐ろしさを伝えたいというのはあります。世の中で、教えるべきなのに教えないことってあるじゃないですか。例えば人への謝り方とか、お金との付き合い方とか。そういうことを面白く学べる教材になればいいな、という思いはあります。
——山口さんがフジテレビでつくった『ナニワ金融道』シリーズや『カバチタレ!』に通じるテーマですね。
岩倉:あんなドラマをつくるプロデューサーってなかなかいませんよね。
山口:僕がフジテレビに入ったときは、トレンディドラマの全盛期でした。でも、経済っていうか景気の波と一緒でいつかトレンディ―ドラマ以外のジャンルも求められることが目に見えていたので、漫然とトレンディドラマをやってたら自分は生き残れないとわかっていたんです。
岩倉:だからあの時代のフジテレビにいながら『ナニワ金融道』をドラマにしたんですね。たしかにあれは新しかった。だから僕は、山口さんのつくる『闇金ウシジマくん』でも、何か新しい現象を起こせるだろうなと思ったんです。
——そして人気シリーズとなった理由を、山口さんはどう分析しますか?
山口:危ない橋は渡ったものの、大きな失敗さえしなければ、世間に受け入れられるだろうなとは思っていました。『ナニワ金融道』は6本つくったんですけど、終盤の頃(2005年)には、原作で描かれる大阪の街金の世界が牧歌的に見えるくらい、社会は苛烈化し、格差も広がっていた。「もっとすごい世界があるぞ」という話は、ご存命中の緒形拳さんと話していたんです。そう考えると、2004年から連載が始まった『闇金ウシジマくん』という作品は、当然生まれるべくして生まれた作品ですし、今の時代を切り取る面白さが間違いなくありました。なによりも、「トゴ(10日で5割の利子)」という異次元のすごさがありました。丑嶋という主人公のキャラクターとしての強さも今の時代に合っていたと思います。『ナニワ金融道』は灰原という岡山出身の主人公が、大阪の街金・帝国金融というコテコテのナニワの世界にやってきて、法律をギリギリのところで犯さずに、債務者から絞り上げる方法を会得していく。視聴者は灰原という標準語を話す男と同じ目線でナニワの世界に入っていく。それがドラマや映画のオーソドックスなつくり方なんですけど、今の時代は主人公がすでにキャラ立ちしているもののほうが受け入れられやすい。丑嶋もまさにそうで、最初から完成した状態で登場し、客やライバルがその周りで右往左往して人間ドラマが展開する。丑嶋はいわば自然現象、天災、すなわち怪獣映画と同じ感覚ですね。
―――キャラ立ちした主人公で、他につくられた作品はありますか?
山口:企画段階に参加した『ハケンの品格』とか。人がつくったものですが『女王の教室』とか素晴らしかった。第1話から強烈にキャラ立ちした主人公がガーンと登場するストーリーでないと、今の視聴者には人公の成長を毎回追っていくだけの時間も我慢もない。受け手である視聴者の集中力がそこまでなくなってしまった原因は、ドラマでもバラエティでもあれこれわかりやすく説明し過ぎてきた送り手、つまりテレビ局の作り手側にもあるのではないでしょうか。
岩倉:確かにそうです。
——では最後に、テレビドラマや映画という映像コンテンツの展望をお聞かせください。
山口:これからのテレビ視聴者は、スマホをいじりながらテレビを見るようになると思うんです。そういう集中力の視聴者を対象にするには、30分、15分といった枠でドラマをつくる必要があるかも知れないでしょうね。
岩倉:YouTubeを開けば素人の方の動画が無料で見れて、テレビのバラエティでも素人をいじる昨今の視聴者は、ターゲットの狭い、味の濃い映像に慣れてしまっているなと感じます。それに比例して、映画もアトラクション性が高い体感系の作品や、壁ドンのように映画の中の数シーンにキャーと反応して満足するイベント系の作品が増えている。でも、僕はあくまでも、物語で満足させる映画づくりにトライしていきたいなと思います。
山口:僕は映画に関してはビギナー、新参者なので大きなことは言えないですが、日本人だけが出演して日本語をしゃべり、日本のモチーフを取り扱う作品は、日本の人口が減っていく今後は縮小していくしかないので、海外の役者もキャスティングし、日本ではない題材も扱っていかないと、日本映画は産業として生き残れないとは思います。俳優は日本語以外の言語や、アクションに堪能であるといったように、表現ツールを増やす必要があると思います。
——トレンディドラマ全盛期だったフジテレビ時代に『ナニワ金融道』をつくったように、山口さんが次に何をつくるのかが気になります。
山口:はい。ありがとうございます。……でも秘密です(笑)。
(取材・文=須永貴子)
■公開情報
映画『闇金ウシジマくん Part3』
キャスト:山田孝之、綾野剛、本郷奏多、白石麻衣、筧美和子、最上もが、マキタスポーツ、山田裕貴、前野朋哉、矢野聖人、児嶋一哉(アンジャッシュ)、さくらゆら、岸井ゆきの、水澤紳吾、山下容莉枝、大杉漣、藤森慎吾(オリエンタルラジオ)、浜野謙太、高橋メアリージュン、崎本大海、やべきょうすけ
監督:山口雅俊
主題歌:Superfly「心の鎧」
公開表記:2016年9月22日(木・祝)全国公開
公式URL:ymkn-ushijima-movie.com
コピーライト:(C)2016真鍋昌平・小学館/映画「闇金ウシジマくん3」製作委員会
映画『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』
キャスト:山田孝之、綾野剛、永山絢斗、真飛聖、間宮祥太朗、YOUNG DAIS、最上もが、真野恵里菜、太賀、狩野見恭平、湊莉久、天使もえ、マキタスポーツ、玉城ティナ、六角精児、モロ師岡、安藤政信、八嶋智人、高橋メアリージュン、崎本大海、やべきょうすけ
監督:山口雅俊
主題歌:Superfly「Good-bye」 イメージソング Superfly「天上天下唯我独尊」
公開表記:2016年10月22日(土)全国公開
公式URL:ymkn-ushijima-movie.com
コピーライト:(C)2016真鍋昌平・小学館/映画「闇金ウシジマくん ザ・ファイナル」製作委員会