『闇金ウシジマくん』山口雅俊監督 × 岩倉達哉Pが語る、シリーズ6年間の挑戦と進化
山口「制約があったからこそドラマとして面白くなった」
——原作のエピソードを、どうやってテレビドラマと映画に振り分けたのですか? 単純に考えると、過激なものは映画になりそうですが。
山口:すごく広い画を撮りたいエピソードや、映画でしかできないような予算がかかるエピソードは映画で撮りました。〈Part3〉で、藤森さんが演じる中年サラリーマンの加茂が河原で燃やされるシーンは、テレビドラマとして準備してたんですけど、ちゃんとスタントを使って、大画面で走り回る加茂を撮るべきだなと考えなおして映画にしました。
岩倉:真鍋さんの原作に、見開きで挟まれる大きく引いた風景などは、テレビではなかなか表現できません。〈Part1〉で大島優子がネットカフェで寝る直前にインサートされる朝を迎える東京の風景も、映画だからこその効果的なカットですよね。
——逆にいうと、過激さが振り分けの基準ではないから、あの問題作「洗脳くん編」を〈Season3〉にしたんですね。
山口:「洗脳くん編」は過激だってことで映画でもいいんですけど、ドラマでやったほうがいいじゃないですか。
——なぜですか?
山口:みんな、びっくりするから。…かな?
岩倉:(笑)
——びっくりしました(笑)。通電の描写をよくやったな…と。
山口:通電の描写はゴールデンタイムでもやろうと思えばできます。やらないだけで。
——自主規制でしょうか? テレビでの作品作りに窮屈さを感じますか?
山口:テレビの制約は大事で、ないよりもあったほうがいいものができます。制約がないと逆に難しい。今回の「洗脳くん編」も、先が気になるストーリーとしての面白さを考えると連続ドラマでやりたかったし、制約があったからこそドラマとして面白くなったと思います。
山口「世界では監督がモニターを見ながら出資者と切った貼ったをやっている」
——6年間を振り返って、なにがいちばん大変でしたか?
山口:立ち上げのときですね。〈Season1〉はオンエア枠が決まらない状態で撮影の初日を迎えたので、撮り始めてしまった。通常のビジネスとして考えれば絶対にやってはいけないことです。
岩倉:(苦笑)
——映画では上映する劇場が決まる前に撮ることは珍しくありませんが、ドラマでは初耳です。
山口:いくつかの局に企画を持って行きましたがダメで、毎日放送とTBSだけは可能性があったんです。でも、「犯罪者が主人公の作品を、果たして地上波でオンエアしていいものか」という議論が局内であり、なかなかゴーサインが出なかった。いくら「社会問題を啓発していくようにつくります」と言っても、局の立場としては「犯罪者を美化し、犯罪を助長するのではないか」と心配になりますよね。
岩倉:極端な話、タイトルから「闇金」を外して『ウシジマくん』にすれば企画が通りやすいですが、そこが作品のアイデンティティですから外せるわけがないですよね。
——結局、ゴーサインが出たのはなぜですか?
山口:関係各位が「もういいだろう。あの「ナニワ金融道」を映像化した山口にやらせてみよう。」と(笑)。
——局のOKが出る前の制作費はどうやって用立てましたか?
山口:まず僕がだしていきました。だいぶリスクをとりました。そういう意味でも〈Season1〉は、通常のドラマとは成り立ちが違ったので、危険な企画でした。最初の頃はほぼほぼ寝ずに、徹夜が続いて。SDPさんが参加する前は資金も集まらなくて、参加してからもまだ足りなくて。
——岩倉さん(SDP)は途中参加だったんですね。
岩倉:僕も原作を面白いと思っていて、小学館さんに聞いたらすでに映像化に向かって動いているということで、「そっかー」と思っていたところ、山田孝之のマネージメントサイド(スターダスト・プロモーション)から、彼が丑嶋役で監督が山口さんだという情報が入ってきたんです。第1話の台本を読ませてもらったらすごく面白かったので、一緒にやる方法を探っていったところ、オンエアができるかどうかまだわからないタイミングだったので、「うちも映画化に向けてドラマの宣伝を頑張って盛り立てますので」という形で入らせてもらいました。
山口:でも、まだ金が足りなくて。僕がフジテレビでプロデューサーをやっていた頃って、最もいい時代だったんです。技術の撮影機材や美術、弁当のクオリティから、キャスティングにおける力関係においても絶頂の黄金期でから、制作費の苦労なんてしたことがなかった。「ロング・ラブレター~漂流教室~」で1億円の赤字を出したのに立たされて「ごめんなさい」で済んでいた時代。
——それに比べてこの現場はお金がない。
山口:自分は監督として、現場でモニターを見ながら、「あといくら足りない」みたいな話をしていいものかと悩んでいたんです。でも、国際的に活躍しているアジアのある監督が、モニターを見ながら携帯電話で出資者と「何千万か足りない」と話している一方、それだけ逼迫しているにも関わらず、プロデューサーに「このカットを撮り直したいから女優をパリから呼び戻せ」と言っていたという話を聞いて考えが変わりました。そういうことって絶対に大切なんです。規模の違いはあれど、世界では監督がモニターを見ながら出資者と切った貼ったをやっている。特に『闇金ウシジマくん』のような作品は、フジ時代のように大きな予算をつけてもらって赤字だ黒字だと言っている世界とはまた違う、混沌をくぐり抜けて新しいものを生み出すべきだと腹が決まりました。