闇と光の“反復”はどんな恐怖をもたらすか? 『ライト/オフ』が辿り着いた、映画の根源的表現

 前述したとおり、本作の面白さはドラマよりも、とにかく照明を使って「オン」、「オフ」を繰り返し、化け物と一対一で恐怖の「だるまさんが転んだ」を遊ぶことを余儀なくされるという展開だ。何度も何度も繰り返されるオンとオフ。「オン」の状態では身の安全が保証されており、「オフ」の状態では怖いことが起きる。私の個人的な体験においても、子供の頃からいまだに、照明を点けたり消したりする瞬間に「何かがいるかもしれない」という恐怖をふと覚えるときがある。

 以前、ジェイムズ・ワン監督の『死霊館 エンフィールド事件』の評において、ホラーにおける「反復表現」は、「ごく短い間に緊張、弛緩を何度も体験させることで、観客の心理を翻弄する」と述べたが、この点だけを問題にするならば、ワン監督が様々な意匠によって達成するような反復表現の恐怖を、ここでは照明を利用することによって、より洗練され純粋化したかたちで取り出すことができているといえる。(参考:『死霊館 エンフィールド事件』はホラーの枠を超える傑作だーー天才監督ジェイムズ・ワンの演出手腕

 反復表現にかけては、デヴィッド・F・サンドバーグ監督は専門家と呼べるかもしれない。彼の短編でも、壁に掛けられた不気味な写真の中の人物が動き出す"Pictured"(ピクチャード)の、見る度に写真の状態が変化する描写や、"Closet Space"(クローゼット・スペース)での、クローゼットの扉を開け閉めする度に怪異が起こる描写など、彼の作品の多くに、この演出が用いられているのである。面白いのは、この描写は怖いと同時に、ユーモアをも感じるということだ。ホラー作家は「恐怖と笑いは地続きに繋がってる」という意味の発言をするが、サンドバーグ監督の作品を見ると、その感覚がとくによく理解できる。とにかく、この短編シリーズは必見であろう。

 もうひとつ言っておかなければならないのは、闇と光が入れ替わるという点に重大な何かを感じるのというのは、「映画」そのものが闇と光を利用した芸術であり娯楽であるからだ。この演出は、音声などの複合的な情報を排除してなお、映画本来の持つ根源的な表現に我々を立ち戻らせる力すら持っている。デヴィッド・F・サンドバーグ監督は、映像の探求のなかで、もっと早く発見されるべきだった、たいへんな鉱脈を掘り当てたと思えるのである。

 ただ、圧倒的とはいえ、それはあくまでもワンアイディアに過ぎない。サンドバーグ監督の次の作品は、『死霊館』のスピンオフ、『アナベル 死霊館の人形』の続編だ。『ライト/オフ』では、彼自身が発見した「オン」、「オフ」という最高のアイディアによって、少なくとも最低限の成功は約束されていたといえる。本作でその貯金を惜しげもなく使ってしまったことで、自ずと次の作品は、彼にとって長編映画の演出力を問われる本当の勝負作となるはずである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

『ライト/オフ』ポスタービジュアル

■公開情報
『ライト/オフ』
2016年8月27日公開
監督:デビッド・F・サンドバーグ
製作:ジェームズ・ワン、ローレンス・グレイ、エリック・ハイセラー
製作総指揮:ウォルター・ハマダ
出演:テリーサ・パーマー、ガブリエル・ベイトマン、ビリー・バークほか
公式サイト:https://warnerbros.co.jp/c/movies/lights-off/
(c)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT

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