家入一真が語る、ネット社会と人間の脆弱性 『MR. ROBOT/ミスター・ロボット』イベントレポ

『ミスターロボット』イベントレポート

 Amazonプライム・ビデオで独占配信中の海外ドラマ『MR. ROBOT/ミスター・ロボット』シーズン2の上映会イベントが8月24日、Amazon試写室(東京)で行われた。イベントでは、シーズン2の第1話が上映され、トークゲストには株式会社CAMPFIRE代表取締役の家入一真氏が登壇した。

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家入一真氏

 『MR. ROBOT/ミスター・ロボット』は、社会不安障害を抱える一方で高度なハッキング技術を持つ主人公・エリオットが、サイバー犯罪集団“f.ソサエティ”に所属し、世界に多大な影響力を持つ大企業“Eコープ”を壊滅させようと目論むサイバーパンクドラマ。シーズン2では、エリオットらのサイバー攻撃によって、混乱に陥る世界の模様が描かれていく。

 本編上映後に登壇した家入氏は、高校中退後、21歳の時に株式会社paperboy&co(現在はGMOペパボ株式会社)を創業し、同社を29歳でジャスダック市場へ上場した経歴を持つ人物で、本作の主人公“エリオット・オルダーソン(ラミ・マレック)”に共感できるところが多々あったと語る。

「僕も起業するまではずっと引きこもりでした。このように人前で話したり、人と会ったりすることも苦手なので、エリオットの言動には共感できました。それに世界を変えたいとか、正義感から動いているのではなく、個人的な仕返しで行動しているところにも親しみを覚えましたね。これは余談ですが、上場した時の創業者利益で20億円ほど手に入れたのですが、それのほとんどをお酒に使ってしまった経験があります(笑)。ちゃんとした青春を送っていなかったので、それを取り戻したかったのか、一ヶ月のお酒代に3000万くらい使ったこともありましたね。エリオットみたいな破滅思考ではないですが、そういう部分も少し重なるかもしれません」と主人公と自身に共通点があることを明かした。さらに、主人公の存在自体がインターネットのようだったと述べ、「インターネットの原点には、ヒッピー主義に由来する反権力主義といった思想があります。ひとつの企業が世界を牛耳る社会の中で、そのシステムを破壊し、奪われたものを取り戻そうとする彼の思想は、インターネット的だなと感じました」とエリオットの印象を語った。

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 情報化社会への風刺やテクノロジーの進化、ハッキングツールなどのリアリティに注目が集まる本作。著書『さよならインターネット - まもなく消えるその「輪郭」について』でネットの影響力について言及している家入氏は、本作にもネット社会のリアルが描かれていると解説する。

「IOTを含め、様々な形でインターネットが社会に浸透したことで、現代の人たちは“インターネットを行っている”という意識を持たずに、ネットを利用している方が多いと思います。それだけテクノロジーが進化を遂げて便利さが増したと言えますが、逆に僕らの意識していないところでも言動や思考に影響を与えるようになってきているとも言えます。例えば、特定のアルゴリズムにより選ばれたフェイスブックのニュースフィードで交友関係が変化したり、過去の検索履歴からパーソナライズされていく検索エンジンにより見るものが限定されるなど、プラットフォーマーの影響が自分たちの意思決定の一端を担っている。『MR. ROBOT/ミスター・ロボット』にも通じるテーマだと思うのですが、選択した行動は本当に自分の意思によるものなのか、完成されたシステムをすべて壊して目を覚まさせようとする構図は、『マトリックス』などに近いものがありますね」

 さらに、インターネット環境の変化について尋ねられた家入氏は、「インターネット空間は広がり続けている一方で、個人が見ている範囲はどんどん狭まってきているように感じます。昔はインターネットが普及すれば、どんな情報でもすぐに手に入って、自由な表現活動が好きなだけできる素晴らしい世界がやってくると思っていたのですが、意外とそうはならなかった。先ほどのパーソナライズの話に繋がりますが、自分の思考と近い人をフォローしたり、興味のある情報だけを選んでいると、個人を中心としたパーソナルスペースがどんどん小さくなっていきます。結果、自分と考えの違う人が世の中に存在していることに気づかなくなってしまう。空間は無限に広がっているにも関わらず、息苦しさを感じるのはなぜなんでしょうか。このドラマの監督にも同じような問題意識を感じますね」

 ドラマ内で行われるハッキングやソーシャルエンジニアリングも、現実で十分起こりうる可能性があると家入氏は続ける。

「例えば寝ている間に指紋認証を解除されてLINEのキャプチャーを取られたり、落ちてたUSBを興味本位で繋いだらウイルスだった、なんてことは十分ありえると思います。ドラマでは、ストリートミュージシャンに扮してCDを渡していましたが、僕がクライアントに資料としてCDを渡したら、なんの疑いも持たずに内容を確認すると思います(笑)。それにハッキングを通じて人間やコミュニテイの脆弱性を描いているとも感じましたね。人間にはなんらかの弱みがあって、そこを突くことでソーシャルエンジニアリングが行えたり、相手以上に多くの情報を手に入れることで優位に立つことができる。人間やコミュニティの本質がリアルに描かれていて、その通りだなと納得するところもたくさんありました」

 私生活でもAmazonプライム・ビデオをはじめとする動画配信サービスを利用しているという家入氏は、Amazonプライムについて「動画や音楽などの既存のサービス以外にも、保険や食料などの様々なサービスに波及していけば、Amazonプライムが僕らの生活の基盤になる可能性はある。さらに言えば、人間が定額で生活できればすごい面白いなとも思う。例えば、月額数万円で衣食住が保証されるみたいな(笑)」と語る。さらには「今は人ひとりの時間の奪い合いになってきていると感じる。ドラマを見ながらスマホを操作することが当たり前になってきているように、どんどん人間自体がマルチタスク化しているので、いかにその時間を奪っていくのかを考える必要がある。そういう意味では、個人の時間に割り込まない、ラジオのような音声メディアがなんらかの形で出てくると思います。動画もテキストもユーザーの時間を占有してしまうのですが、音声メディアは自然な形で“ながら”ができるので」とコンテンツビジネスの今後にも言及した。

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